合気道の合気のお話: ② 私の合気道

合気道エッセイ その1 合気道エッセイ その2

 合気道を技として習得するのは弐段を取得するまでで,あとはそれをブラッシュアップしていきます。弐段を取得している人の数は現在8万人ですから,世界で合気道を稽古している人の数が150万人とすると,大部分の人は技の習得をしている最中ということになります。合気道の歴史は,柔道と重なります。合気道に大きく影響を与えた大東流の武田惣角 たけだ そうかく 先生の生まれたのが柔道を作った加納治五郎 かのう じごろう 先生の1年前,合気道を創設した植芝盛平 うえしば もりへい 翁は,柔道の三船久蔵 みふね きゅうぞう 十段と同じ年の生まれです。「柔よく剛を制す」「小よく大を制す」は柔道の言葉として有名ですね。合気道の技も大きな人にもかけることことができるのだろうかと疑問に思う人もいると思います。

 合気道の普通の技の中に普段は見えない極意動作が深く眠っています。それを植芝盛平翁は,「極意は日常の教えの中にあり,基本の技法の中にこそ深く蔵 ぞう せられている」という言葉を残しています。

 米国の留学中に合気道部で指導した話は,以前にしました。この時に私が体験したびっくりした話をしたく思います。この時は参段でしたので,合気道の技は一通りマスターしていましたが,自分より大きな米国人に通用するのか内心不安に思っていました。しかし,これは杞憂で参段レベルの技で十分通用し,自分でも納得のできるものでした。あるときアフリカ系の学生が二人体験稽古で道場へやってきました。二人ともカモシカのような精悍な体つきをしています。体操で体をほぐしたあと,片手で頭上から正面打ちを打ってくる手を捌く一教という技を説明している時です。いつもの通り説明しながら相手の腕を捌こうととしたら,相手が目前からフッと消えて2m先にすっとんでいます。身体能力にたけていて,瞬時に立ち上がりまたかかってきます。同じようにまたすっ飛んでしまいます。二人とも同じでした。まだ技らしい技はなにもしていなく,これから技をと思っているタイミングで,これには私もびっくりでした。この二人はそれっきり道場へ顔を出しませんでした。
 しばらくして大学構内の循環バスで,座っている私の目の前に乗ってきた一人の黒人が直立不動の姿勢で立って動きません。その人が立ったままなのでバスは出発できません。この時,ひょっとしたらこの間体験稽古に来た人かなと,うなずくように首を縦に振り会釈をしました。それを合図に彼はバスの後方へ移動し座席に座りバスは無事出発することができました。道場では私もびっくりしましたが,体験稽古に来て投げられた彼らもあまりにびっくりし道場にこれなかったんだとその時気が付きました。

 これが初めての私の「柔よく剛を制す」「小よく大を制す」を体現した忘れられない「合気発現」の思い出です。

わたしと豪州合気会Sutherland道場のPaulさん

 Paulさんは体重100kg超,私との身長差30cm弱,稽古している時は自分と同じ程度の大きさと思っていますが,写真で見るとその身体差にびっくりです。

ではでは。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com