「その時私は」物語:たつひとのスキューバ その4

合気道エッセイ: 合気道とスキューバ


 合気道をやるうえで極意となる丹田や重力のことなど,スキューバは色々なことを考えるきっかけとなりました。そんなお話をしたく思います。

【中性浮力】
 「中性浮力」(neutral buoyancy)という言葉はあまり聞かないと思います。水中で浮上も沈降もしないで,ある位置にとどまる状態をいいます。スキューバではボンベを背負 しょい います。背負うためのジャケット/ベストをBC (Buoyancy Compensator)といいます。このジャケットは袋がついていて空気をだし入れるすることができます。これにより浮力を調整します。スキューバで使うボンベは容量は,8リットル,10リットル,12リットル,14リットルがあり,タンクの重さは10kg~18kgです。そしてこのタンクに入る空気の圧力はゲージ圧で測り,圧力ゲージのMaxは150~300kg/cm2Gとなっています。空気も重さがあってタンクに入れた量によって2~5kgになります。結構重たいですね。エントリーとは海に入ることですが,ボートでのエントリーはタンクを背負ってからエントリーするまでの時間が短く楽ですが,ビーチからのエントリーでは近くまで車がいけるところは良いですが,階段で海岸まで下りるような場所ではこの重たいタンクを背負った状態でいかなければならず大変です。この重さが水中でもかかるのですが,まずはタンクに浮力がかかり,BCに空気を入れることで,浮力を付加できます。来ているウエットスーツも浮力を持っています。一方水中での下方への力としてウエイトも4~10kgを腰に付けます。これらのバランスで,水中で一定の位置にとどまる技量を身に着けます。頭だけで考えただけではこの微妙な浮力の調整できません。最終的な微調整は呼吸で肺の中の空気の量をコントロールして行います。

空気の泡は上ってきますが,私は動きません。

【水中と宇宙空間】
 宇宙飛行士の訓練を地上でやるときにプールを使うところを、ドキュメンタリーのビデオなどで見たことがあると思います。プールでは水の抵抗がありますが,水中で中性浮力の状態はまさに宇宙空間と同じです。地上では,常に地面や床と接触していてそこからの力を感じますが,中性浮力の状態は周りからの力の影響を全くない受けない状態です。この状態で体を回してみたりして動かしてみるとすべて,体の重心を中心に動いていることがわかります。この体の中心を感じながら動くというイメージが,合気道の丹田につながるのだと実感することができるようになります。

【合気道の丹田の理解へのきっかけ】
 中性浮力状態で,体の動きは丹田,上下左右,力を加えようにも触れるものがなく,体の重心を中心に体が動くことを,自分の体の感覚としてわかり,容易に体の重心を知ることができます。実は私の合気道では,体のバランスを足の踏ん張りで保つのではなく,普段の稽古の中でもこの空中での体の立て直しを重心,丹田を中心に行っています。これは足が床についていても膝抜きでできることですが,バンと音がいつもすることから足裏が床から離れ少しは宙にでて体制を整えているのでしょうね。飛び上がるといった感覚はありません。そういえば日常生活でも,歩いていて躓つまずいたときに足首を挫くじかないように,このことを行っていることを思い立ちます。

【スキーのエアターン】
 話は突然変わってスキーのお話です。昔のスキーの滑り方で,ゲレンデのコブで空中に飛び出し,そこで体勢を整え方向を変えて,雪面に着地しスキーをコントロールするエアターンという方法がありました。このターンはスキーで体がばらけた時,そのバランスを整えるために使っていました。一旦空中にでて対処します。空中では体勢を,スキーも含めた体全体の重心を中心に体勢を整えていきます。空中で行うスキーのエアターンと水中での体の操作とは同じなのだなと気づかされました。ともに外部との接触がなく,重心を中心に体勢をコントロールします。

【重さの実感】
 水中である時間過ごしたあと,ボートの上に戻ってくる時は本当に重いです。自分の体はまだしも,タンクの重さがどしっとかかってきます。この重さは地上にいる時しか感じないと考えるとき,合気道での重力掛けのポイント,他人の力を使うのではなく,合気道開祖植芝盛平翁のいう「天地の理」が,空中での丹田意味と重さの使い方とでおぼろげながら見えて来ます。

【呼吸法】
 合気道は,呼吸法とか呼吸投げとかの名前があるように「呼吸」を重視します。呼吸は大切なのはわかりますが,重視するといっても「呼吸」をどのように技や動作に関連させるのかは指導された記憶がありません。呼吸法ととして座禅して行うものは,心身の活性化のために有効だと思いますが,これで合気道の技の極意が体得できるかというとまた言葉遊びの世界に入ってしまいます。
 スキューバダイビングでは,ボンベに入った空気は大切です。このボンベの空気を吸わないと水中では死んでしまいます。それも深度が深いほど,空気の体積が減ってしまい,ボンベから肺に入る空気の体積が減るわけで。滞在時間が減少してしまいます。ムダにスーハーしているとあっという間に圧力ゲージを見てびっくりすることとなります。緊張せず心を平静に保ち,体に必要な空気を大切に吸うという意味で,スキューバダイビングは,本当の呼吸法だなと潜りながら思ったものでした。

皆さまの「その時私は」物語のお話をお待ちしております。今回は「その時私は」物語合気道エッセイのコラボでした。

企画担当 高橋達人 tatsudoc@nifty.com,tatsuaiki7@gmail.com