無機材会は東京工業大学の窯業・無機材料分野の教職員と卒業生の同窓会です。
窯業・無機材料分野の技術進歩は著しかったため、当該分野の名称の陳腐化が急速であったことは否めません。西洋からセメント、板ガラス、耐火物などの新技術の導入が進んだ明治時代には、これらの新産業分野を包含する窯業の名称を植田豊橘が1887年に考案し、その後広く用いられるようになりました。植田豊橘は「窯業」をセラミックスの訳語として提案したのですが、アメリカではセラミックスに対し、「無機、非金属物質を原料とした製造に関する技術および芸術で、製造あるいは使用中に高温度 (わずかに赤色が認められる温度、すなわち約540℃以上) を受ける製品と材料」と定義されており、陶磁器のほかにセメントやガラスが含まれます。
しかし、戦後になってニューセラミックスやファインセラミックスなどと称される特殊磁器分野が発展すると、明治時代に作られた新語である窯業の枠を大きく超えた科学技術分野が広がってきました。この新しい分野は従来の窯業の範疇から大きく逸脱するものだったのです。そこで、無機材料やセラミックスがこの分野を代表する用語として登場し、陳腐化した窯業に置き換わって使用されるようになりました。
東京職工学校が1881年に設立され、1890年に東京工業学校、1901年には東京高等工業学校となりました。そして1929年には東京工業大学に昇格し、8学科・4教室が設置されました。窯業・無機材料分野とは東京職工学校時代には化学工芸部陶器瑠璃工科であったものでした。東京工業学校時代は陶器瑠璃工科でしたが、途中から窯業科に名称変更されました。東京高等工業学校では継続して窯業科と称され、東京工業大学 (旧制) となってからは窯業学科、窯業学コース、無機材料科学コースなどと称されていました。東京工業大学 (新制) となってからは化学工学過程あるいは応用化学科の一部の時代もありましたが、1960 年に学科名称が無機材料工学科となってからは無機材料の名称が定着していました。その後、平成から令和の時代になり、本学の組織改革で無機材料分野は物質理工学院の材料系 C群 (無機材料分野) となって現在に至っています。
窯業・無機材料分野の研究所として設置されたのが窯業研究所で、これが現在のフロンティア材料研究所の源流です。1934年には建築材料研究所が、1942年に窯業研究所が発足し、この2つの研究所が1958年に統合されて工業材料研究所となったのです。工業材料研究所は1996年に応用セラミックス研究所に改組され、2016年に再編されてフロンティア材料研究所となりました。この2016年の再編によって研究所はフロンティア材料研究所、未来産業技術研究所、化学生命科学研究所、先導原子力研究所の4研究所体制となりました(これらの研究所が所属する科学技術創成研究院には、研究センター、研究ユニット、基礎研究機構も設置されています)。このなかの先導原子力研究所では、原子力関連の窯業・無機材料分野の材料研究が行われていました。この源流は1956年に設置された原子炉研究施設です。これが1964年に原子炉工学研究所となり、2016年に先導原子力研究所に組織変更されたのです。2021年6月1日に先導原子力研究所は改組されて、ゼロカーボンエネルギー研究所が設置され、現在に至っています。
無機材会は蔵前東京高工窯業科の同窓親睦の会として発足した同窓会を母体として発展してきました。大正時代までは「鳥又會」、昭和の始め頃には「愛窯會」、昭和8年には「窯業同窓會」と称し、昭和18年からは「八日會」(窯化會に通ず) へ改称しました。戦時中には活動を中断しましたが、昭和22年1月に会名を再び「窯業同窓會」に改称して活動を再開し、同窓会名簿の作成に取り組みました。その後は「窯業同窓会」とする新字体への変更を経て、2017年1月には「無機材会」への名称変更が行われて現在に至っています。
文献
窯業については例えば以下を参照
1. 素木洋一,セラミックスの技術史,技報堂 (1983).
2. 加藤誠軌,標準教科 セラミックス,内田老鶴圃 (2004).
ニューセラミックスとファインセラミックスについては例えば以下を参照
3. ニューセラミックス懇話会編,ニューセラミックス 材料とその応用,日刊工業新聞社 (1977).
4. 齋藤進六,白崎信一編著,ニューセラミックスの時代 ―世界に誇る製作技術 ,工業調査会 (1984).
5. 柳田博明編著,ファインセラミックス,オーム社 (1982).
6. 工業調査会編,最新ファインセラミックス技術,工業調査会 (1983).
7. 奥田博編著,ファインセラミックス―その機能と応用,日本規格協会 (1989).
8. 佐多敏之,ファインセラミックス工学,朝倉書店 (1990).