合気道エッセイ その1: ⑦ 重力掛け

合気道エッセイ その1

 前のエッセイで,膝を抜くことによる転回足てんかいそく,てんかいあし (膝抜き転回足) の話を説明しました。この動作は駿速0.02秒で,人が反応できる時間とほぼ同じです。この時間,体は床に荷重せず,つまり中に浮いていることになります。

膝カックン,膝抜きの動作によって人が動きを始める前に
相手に自分の重さを加えることができます。

周りで見ている人も膝抜きの動きを見抜くことはできないので何もしていないように思います。この間に60kg,米俵1俵,セメントが入ったセメント袋2つと10kgの重さを,技の決め所にかければ相手は抵抗することもできません。技を極意技にすることができます。これを膝の効用と呼ぶ先生もいます。60kgを相手の腕の上に0.02秒で載せられれば抵抗する間もなく対処できず,一旦相手の体が崩れれば,こんどは重力が相手の体を下方へ落としてくれます。ただし,相手に一瞬で全体重をかけるのではなく,相手の受けの技量に応じて加重の動きをコントロールしているので重力掛けと呼んでいます。稽古相手に怪我けがをさせたら大変です

(米俵1俵と護身術)
 宙に浮いている60kg,米俵1俵,これがあなたにぶつかってきたら大変ですよね。これをうまく技の中で使っていくと極意技とすることができます。
 合気道を知らなくても自分の体を守らなければならないときがあります。後ろから抱き着かれた,後ろから両肩をがっしり掴まれた,腕を後ろから片腕を取られ他方の手で首を締められた,後ろから羽交い絞めにされた,前から前襟をつかまれ締め上げられた。このような状況にならないように行動することが大切ですが,もしこのような状況になったら「護身術をやっておけばよかった」と思っても遅いですね。一つ覚えておいてもらいたいのは,あなたの体重は60kg,米俵1俵ということです。体をまっすぐ垂直に保ち両足を正座をするように上げてしまいましょう。これを空中正座と呼んでします。相手は前につんのめるかあなたを保持することができません。かなりの確率で相手にダメージを与えます。あとは逃げるだけです。ただし,空中正座は,自宅の布団の上で一人で練習してください。興味本位でこのような状況を作り練習して相手は受身もできないと首の骨を折ってしまい大変なことになってしまうかもしれません。

(空中正座の時間)
 「空中正座の時間」とは変な言葉ですね。まっすぐ立った状態から足を折り込み,畳の上で正座するような形にします。この状態から床に到達するまでの時間です。人の重心は身長の半分ですので床から80cmの位置とします。ここから自然落下ですので,膝カックンの計算と同じく計算できます。0.4秒です。0.4秒でがっしりあなたを掴んでいる相手はあなたの空中正座の動きに対処できないので下手をすると救急車に警察ということになりそうです。
 私が道場で護身術を説明するときも丁寧にゆっくり説明しながら行います。それでも畳に顔面をぶつけた人がいました。安全第一です。

 次は,空中にある米俵1俵をどのように相手の一部分にのせるその方法をお話します。

ではでは。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com