合気道エッセイ その1: ⑫ 剣道と合気道

合気道エッセイ その1

 世界の剣道人口はネットでは220万人,260万人という数字を拾うことができ,合気道の150万人に比べてもかなりの数になります。中学校で体育の授業として剣道をとりいれたり,また剣道をしなくても学校のクラブ活動などで剣道の動きを見ることができるので,日本ではかなりの人が剣道の動きのイメージをもっていると思います。合気道の剣素振りの習得では,その点日本の人は海外の人に比べ有利です。

(直刀ちょくとう)
 さて,剣道は竹刀ですので直刀と同じです。面白いことに合気道の稽古で使う木刀も若干反りそりがありますがほぼ直刀です。合気道を創始した植芝盛平うえしばもりへいが岩間で剣の稽古をしていたことから岩間剣とか合気剣と呼んでいます。一般に真剣しんけんは反っているいるイメージがあります。剣の使い方がすべて同じと思ってしまいやすいのですが合気道の剣の使い方と居合の剣の使い方はかなり違います。また時代劇と剣道では剣捌きの動きがかなり異なるのはたぶん多くの方に認識されていると思います。この違いは料理ときに使う包丁が使い方により多くの種類があるように,剣の使い方の違いとしてよいと思います。使い方として大きく刺身系と打撃系に分け,合気道や剣道の直刀を使う時は打撃系です。
 合気道の指導で「剣を振りかぶるように」とか「振り下ろすように」とかの説明する先生は多いですが,振りかぶることとはどうするのか,振り下ろすこととはどうするのかの剣素振りの解説まではほとんど聞きません。ここではゆっくりと合気の三原則を使いながらお話ししたく思います。

(剣の重さ)
 まず剣は重いと思っている人が多いと思いますが,真剣でも1.2kg程度です。牛乳パック1リットルの重さちょっとです。木剣は700g程度,竹刀は500g程度です。木剣も軽いものから重いものまであり,まずは軽いものから次第に重いものへ変えていくのが,合気道に必要な前腕伸張力を養成するのに適した方法です。初めから重い木剣を持つとその重さを支えるために上腕屈筋を使ってしまい,合気道の極意へ導く前腕伸張力の修得にたどり着くのが遅れてしまいます。

(剣の構え)
 まずは剣(sword)を持っての構え(posture)です。構えは二通りあります。防御の構えと攻撃に際しての構えです。よく参考にされる植芝盛平翁の着物をきて構えた写真は防御の構え(on-guard position)です。合気道の用語は海外でも日本語を用いますが,説明するときは英語での説明が必要です。右半身(right posture)は以前お話しました。自然体から両足の拇指球(foot balls)を中心に右に90度廻ったところの体勢です。足の内側の線が正面を向き,前足にほぼ直角に後足がきます。この姿勢で剣を持ちます。剣の柄つかの前を右手で,柄の後端を左手でつかみます。柄は左右の握りともに前腕と連動している小指と薬指で持ちます。他の指は添えるだけです。体は半身で正面に対して斜めなので,剣もやや斜めに剣の柄の後端は丹田の前に位置します。相手の打ちを流す体勢です。丹田は臍の下 3cmの位置で体の重心(center of gravity of the body)でした。丹田は体の表面に接してあるとしてよいです。体の内部とすると体の厚みがあるので重心がふらついてしまいます。この構えを正面から見ると剣の柄の端を含め全体が体の幅の内に入ります。

 この体勢から振りかぶりがスタートします。剣は打ち下ろすときに剣の刃が相手に対してまっすぐ向いていないといけないので,右半身のまま両膝を緩め,腰すなわち体を相手に正対させます。剣は自然とまっすぐ相手に向かうことができます。足は半身のままですがまさに腰が相手に正対し,剣の柄の後端が丹田の前,最もパワーを発揮できる真中の位置に持ってくることができました。真中のポイントを押さえていないと,なかなかこの辺の説明がきちっとできません。
 剣道では,両足を前後平行に剣を構えるので,常に竹刀は体の真中に位置します。

(振りかぶり)
 別の合気道エッセイでお話しましたが,合気道には立法諸手取り呼吸法という稽古があります。これは相手が両手で片方の手をつかみ掴まれた方がそれを上方へ上げる稽古です。これを武田惣角先生の大東流では合気上げいいます。この合気上げを剣を振りかぶるようにと多くの先生が指導しますが,剣の振りかぶり自体どのようにするかというと大部分の人が両手の屈筋を使って持ち上げています。前腕伸張力を使って持ち上げると剣の柄の部分が頭上高く上がり肘が伸びた状態になって??? これを打ち込むために一旦,柄を頭上までおろしての操作になります。実は伸張力を使って剣を振りかぶる方法は,伝わるところには伝わっていて,左手でつかむ柄の部分を上げるのではなく,前腕伸張力プッと押します。スコンと振りかぶりが終了します。伸張力はすごいです。しかも伸張力の力感覚ゼロ。上腕の屈筋を使用せずです。合気上げの振りかぶりの操作は,左手の操作だったのです。書き物としてこの話はどこにも載っておらず口伝だけです。教えていただいた方に感謝です。本やビデオで紹介されている動作を,左手伸張力のポイントから確認すると面白いです。

(振り下ろし)
 頭上からの振り下しは,伸張力を使います。頭上に構えた左右の両肘は曲がり,内肘が閉じた状態です。右肘の方が大きく曲がっています。この状態から肘が伸びる様に打っていきます。動的伸張力が発揮され風を切ってビュと剣が振り下ろされる場面です。動的伸張力で剣先に,体重が載っていきます。そして伸び切る直前に中段で剣がビシッと止まります
 合気道では鍛錬打ちがあります。木の枝を束ねたものやタイヤを木の幹に括り付けそれに向かって打ち込みます。伸張力で打ち込まないと跳ね返されてしまいます。試行錯誤の結果,ビシッと止まれば伸張力を使ったということです。
 剣道では面を打たれ脳震盪を起こすことがあります。これは打たれた頭上に打った竹刀を通じて打ち手の体重がのるので当たり前と言えば当たり前ですが,きちっと伸張力で打っているからこそできることです。
 伸張力で打つと中段でビシッと剣はとまりますが,伸張力の働きをしらないと上腕の屈筋で止めようとするので止めきれず,体が前に傾きます。おっとっととといった感じです。

 この伸張力を起こす前腕と上腕の伸筋,上腕にも伸筋はあります,は以前お話したように力を感じることができません。したがって1000本素振りをするなどの話も力を感じることがないのでできる所業です。目が点へぇ~という話もすべて「種」があります。

ではでは。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com