「その時私は」物語: 豪州NSW合気会 サザーランド道場

合気道エッセイ その2

【オーストラリア駐在と合気道の道場探し】
 歳も50代後半になって仕事でオーストラリアへ駐在することになりました。勤務先はポートケンブラにある高炉を有する製鉄所に耐火物を製造し納入する現地の製造会社です。英語を用いての日々の仕事に関することは別のお話として,ここでのお話は合気道についての話です。これまで転勤先でまず行うことは大学時代から続けてきた合気道ができる道場を探すことです。30代で留学した米国ペンシルバニア州立大学には幸いなことに大学のクラブとして合気道部があり,合気道を継続することができました。そして,ここオーストラリアでも赴任した直後からまた合気道の道場探しが始まりました。住んだ町は,最初の定住が1815年で町の形成は1834年の豪州で8番目,NSW (ニューサウスウェルズ) 州で3番目に人口が多い都市ウーロンゴン Wollongong ,シドニーから南に80kmの町で広域では30万人の町です。ウーロンゴン大学があることから合気道のクラブや道場もあるのではと期待しましたが,残念ながら見つけることができませんでした。

【シドニーの合気道】
 オーストラリアの合気道は,1957年に合気会に入会し翌年内弟子となった菅野誠一 すがの せいいち 先生 (1939/12/17-2010/8/29) が,合気道創始者の植芝盛平うえしば もりへい 翁の命により1965年にオーストラリアへ派遣され、ここでの合気道の普及が始まりました。その後,菅野先生はニューヨークに移られ,オーストラリアでの指導は年2回となりましたが,残念なことに先生は2010年に他界されました。その翌年に赴任した私は先生にお会いすることが叶いませんでした。菅野先生が亡くなられた後は,タスマニアのTony Smibert 先生が豪州の合気会をまとめておられます。
 シドニーにおける合気道の道場は,オーストラリアの中心的存在として活動している豪州NSW合気会のほか,塩田剛三先生の養神館,藤平光一先生の心身統一合気道,そして日本で合気会の傘下にある有力道場のシドニー現地道場など多数の合気道が活動しています。

【サザーランド道場】
 ウーロンゴンからもっとも近い豪州NSW合気会の道場は,シドニーの最も南にあるサザーランド Sutherland 道場で,ウーロンゴンからは北へシドニーに向かいほぼ直線で60kmの位置にあります。仕事が終わった後,会社から道場へ高速道路で週二回,車を走らせました。

【はじめての道場訪問】
 豪州NSW合気会に事前にメールで訪問の意思を伝えましたが,段位が名刺がわりで,会としての私への当面の対応も大体決まってきます。米国の時は大学の合気道部は全員白帯で,合気道の本を片手に稽古していた状態でしたので,私の登場は日本から先生が来てくれたと手放しで歓迎してくれました。しかし,菅野先生がオーストラリアで合気道を普及してから早46年が経っています。多数の合気道の流派がシドニーで活動しているように,豪州合気会の中でも色々な考え方やスタイルでの合気道が指導されていて,その師範の元で昇級,昇段審査がされていきます。幸いなことに,私の合気道の技は,合気会の本部道場の技にほぼ準拠しているので,違和感なく受け入れやすいと考えていたものの,やはり受け入れる側は,それなりのストレスがあったと思います。6年間サザーランド道場で稽古・指導できて本当に感謝しています。

【サザーランド道場で出来たこと】
 合気道は,試合がなく,人によって色々な考え方,やり方が作られてしまうことをお話ししました。その中で私の主たる興味は柔道で言われる「柔よく剛を制す」をよく表す合気道の極意技の中身を解析し体現することです。合気道の極意については,すでに「合気道エッセイ」や「合気道 米谷守正先生」でアップしました。オーストラリアへ赴任する前に,既に合気道の極意に関する原理的な説明は作り上げていましたが,それが実際に一般的な技の原理として適応できるのかをサザーランド道場の人たちのおかげで実証することができました。サザーランド道場の方々には本当に感謝です。オーストラリアの人は,基本的に身体能力が優れていてかつ体が丈夫で多少のことではめげません。背中から畳にたたきつけられたり,顔面から畳に落とされたりしても,そのように投げられたこと自体を「これが自分がやりたかったことだ」など言ってくれて,本当にうれしかったです。「高橋さんの技は誰にでも効く」という言葉も最高の誉め言葉です。
 そんなサザーランド道場の面々が私が2017年に帰国した翌年の2018年に日本にツアーを組み来てくれました。東京や鎌倉,姫路,大阪で合気道の稽古をしながら観光地を巡り,昔を懐かしみながら楽しい時をすごしました。

米谷守正先生を囲んで来日したサザーランド道場の面々と 鎌倉武道館にて

 2019年に今度は合気道の稽古にシドニーを訪問しましたが,その後コロナ禍で日本国外へでることができずにいました。この2022年の秋に久しぶりにシドニーを訪問し,ほぼ毎日合気道の稽古や指導をしてきました。新しい人たちにも会え楽しい訪問となりました。

ではでは。

 皆さんの「その時私は」物語への投稿をお待ちしています。今度も「その時私は」物語合気道エッセイのコラボでした。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com

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