合気道エッセイ その1: ⑬ 合気上げ

合気道エッセイ その1

 前のエッセイでは,合気上げのことを少し取り上げました。合気上げとは持たれた腕を頭上高く上げることです。合気道では諸手取り呼吸法と称し「呼吸力を使って上げる」という言い方をします。合気道では合気上げという言葉は使いませんが,武道の世界ではそこそこ有名で,この合気上げという言い方は優れものと思っています。
 ここでは,合気上げの方法や合気の三原則を使った持たれた手を頭上に上げる方法についてお話します。結構,見ている人は目が点になるデモとなります。

(合気上げを始めるにあたって/腕の持ち方)
 合気上げは,相手に両手でこちらの片手を握らせます。まずは,ここで相手の武道的センスが分かります。武道的センスを別にもっている必要はないかもしれませんけれど。「両手でしっかり持って」というと,力いっぱい腕を握り絞めてしまう人は,しっかり持つことが屈筋を使うことと体が信じている人の方法です。こちらの腕をにぎり潰そうとしているかのような握り方で,握られている方は結構痛いです。握っている方は握るために体を固めてしまい,本人は気づかず間合いがすごく近いものとなります。このようなときは,反対の空いている方の手で,ほっぺたをペンペンとたたきます。しっかり握り持つということは,前腕の伸張力を使い剣を持つ時のように両手の小指と薬指で握り,こうすると間合いも十分とれます。間合いは,直ちに相手からの攻撃を受けない適度な距離を保つということです。しっかり持つよりきちんと持つと言った方がよいのかもしれません。持つ方は合気上げをしてくるとわかっているので,持つ位置に体重をのせてくることもあります。この時は,軽く重力掛けをすると相手は床にゴロンと落とされます。合気上げの練習なのにひどいという人はこれまた武道センスのない人で,きちんと持つの意味は,持った相手の手をその位置から他へ移動させないということです。

(合気上げ)
 合気上げ,合気道では諸手取り呼吸法は,かなり重要な基本の訓練法ですが,合気三原則が理解できている先生ばかりでないので,合気上げもどき柔術的合気上げ等の色々な方法が現在教えられています。きちっと合気三原則を使って指導すれば,すぐに白帯の人も合気道参段のきちっと持ってきた持ち手を頭上高く持ち上げることができます。白帯に伸張力で頭上まで腕を上げられた腕自慢の豪州NSW合気会の参段のつぶやきは「今日朝飯を食べてこなかったので力が出なかった」でした。
 合気道の合気を使えるようになるには,自分自身で考えるしかなく,教えるにはまず見せることが大切です。説明が難しいので「見せたことは教えたこと」との言葉も残っています。
 「合気上げ」の「上げ」を意識すると,「上げ」ることは,普通の人は腕を持たれているので,直ちに上腕の屈筋を使って引っ張りあげてしまいます。感覚的にはこれでいいのですが,上腕を使うと頭上まで持たれた手を上げられません。

(合気上げのクリティカルなポイント)
 合気上げで腕を上げるには,まず持たれている手を,腕の操作,または体の操作で自己の真中まで持ってきます。これで,2~3割の力のアップを獲得できます。
 次は,前腕伸張力です。力を感じない腕の操作です。力を感じないので頭で考えるしかありません。伸張力ですから,腕が伸びれば力が発揮できます。たとえ感覚がなくても力が発揮できるのです。合気道は本当に面白いです。自分の肘の内側,内肘の角度を目安にします。内肘の角度が閉じれば,上腕の屈筋が働いたことに,内肘の角度が広がれば伸張力が発動されています。内肘が閉じもせず開きもせずといった点が,クリティカルなポイントになります。力感覚ではこの点が感知できませんが,見ればわかります。ジョッキに入れた水を飲むのは,屈筋を使います。頭の上からジョッキに入った水を掛けるには伸筋を使います。途中にクリティカルなポイントがあります。
 屈筋を使って,ある程度持たれた手を上げることができます。屈筋が自慢の力自慢は,これで上げますが,あるところでストップしてしまいます。頭上高く上げることができません。そこで,屈筋を使った人の合気上げもどきは,その後,体を後ろに反り返すことになります。

(伸張力による合気上げの操作法)
 感覚で操作できない合気上げをするときの頭の中での考え方とそれによる操作法です。意識を指の先端に持っていきます。訓練ができていると相手が持っている手首から指先に意識を移動させることができます。できない場合は,物理的な接触を指先に与えます。第三者に指先に手掌をあてがってもらうことや,また空いている方の手掌を持たれている方の手の指先に持っていき,ちょうど「T」の字になるようにしたり,親指の爪で,薬指や小指の先に爪をたてて刺激を与えます。これで相手が持っていても手の指先に気持ちがいきます。
 そして,垂直またはやや斜め上の天井めがけて手の指先から上げていきます。指先も薬指,小指の先から上げていきます。気が付いたときには,合気上げができています。伸張力で合気上げができた瞬間です。

(合気上げの補助)
 合気上げの補助として,空いている手を左手とすると左手で,右手の小指の脇の部分,手刀と言いますが,この部分を撫で上げます。人間は,持たれているところに意識が行きやすいですが,手刀の部分を撫で上げると意識が右手の指先に行き,手を伸張力を発揮するための腕を伸ばすきっかけになります。
 もっとすごい補助は,持たれている手の小指を他方の手で逆手で握り持ちます。逆手とは,左手の親指と人差指が小指の根元にくる持ち方です。これがすごいのは両手が一つのところに来るので,真中が100%達成されているということです。この左手で握った小指を引き抜くように前方そして上方に伸ばしてあげます。力感覚なしにスコーンと頭上まで持たれた腕が上がります。考えてみればわかりますが,左内肘の角度はこの操作で広がっています。右肘の角度も同様に広がっています。すなわち両手の伸張力を使ったことになり,片腕の伸張力が倍増したことになっています。力感覚はともにゼロです。

(合気をとる)
 諸手取り呼吸法での伸張力による合気上げができるようになると,合気道の技,動作にこの伸張力を利用することができるようになります。「合気をとる」とは,合気の一つの伸張力をマスターしたということです。合気道の開祖の言われた「武産合気」,合気をものにすると技をつぎつぎ生み出すことができるという意味が納得できるようになります。

 「合気上げ」だけで,武道の雑誌の記事や一冊の本がでているほどです。これらを合気三原則の真中,前腕伸張力のポイントを押さえて読むと面白いです。このような話はかなりディープな話なので,なかなか耳にすることはないかもしれませんが,世界にはこのようなことに楽しみを見出している人達もいるのです。たまたま大学時代から始めた合気道は,感覚だけでなく科学的に考えることが好きな理系,技術系,エンジニアにとっては面白い武道と思います。
(^-^)

ではでは。

合気道エッセイ その1 ⑭ おわりに

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高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com