合気道エッセイ その1: ⑧ 丹田てなに?

合気道エッセイ その1

 合気道の極意技の一つのポイントとなるキーワードとして体重,重力の話をしました。ここでは,それに関連する体のうまい使い方についてお話します。

(丹田)
 丹田は「たんでん」と読みます。臍下丹田ともいいます。こちらは「せいかたんでん」です。お臍へその下3cmにある部分を指します。武道や座禅などでよく出てくる用語です。辞書で意味を拾ってみると,「ここに意識を集中して力を集めれば,健康を保ち勇気がわいてくる」「ここに気力を集めれば,健康を保ち勇気が生じる」「心身の精気の集まるところ」など出てきます。別に臓器があるわけではありません。合気道では「臍下の一点」という先生もいます。実はこの「丹田」は体の重心なのです。重心なので一点ですが,手足を動かしたり,体を傾けたりするとその一点が球,ボール状にプロットされるので「丹田」と名付けたのでしょうね。なかなかのものです。重心ですから,そこをしっかり押さえると体が安定します。丹田は頭で考えてもよいですが,臍の下3cmの位置を拳こぶしでポンポンとたたいてあげます。そうすると意識が丹田にストンと移ります。意識が丹田にあると体もぶれません。頭で体をふらつかないようにしようと考えるとふらつきが大きくなってしまいます。面白いです。体の自動制御にませたほうが良いようです。丹田の部分に力を入れる必要はありません。疲れてしまいます。ただ丹田に意識をおくという方法でOKです。繰り返しですが,丹田は体の重心です。そこでバランスをとれば体は自然と安定します。

(体の重心と走り方)
 この体の重心が,両足が床に作る面積から外にでると倒れてしまいます。走るとき,地面を蹴って走る走り方もありますが,体を前に倒しつづけそれを足を交互に出して支えながら走る走り方もあります。これを試すことすごく早く走れますが,止めることができません。足がもつれてひっくり返るまで走り続けることになります。この二つの走り方は足の筋肉の使い方がまったく異なります。
 この走り方を,名付けて合気走り,この合気走りは体が上下しません。腕も振りません。上半身はほとんど固定です。刀を脇に差していても走れます。忍者のようにです。

(体を垂直に)
 体重を使った重力掛けをするときに,「合気走り」のように体を傾けて使うこともできますが,傾けた体は相手がその位置にいなくなれば効果はゼロです。全方位360度に力を及ぼすには,体を垂直に保つことがキーとなります。膝カックン・膝抜きは体を垂直に使っているので,水平方向での位置の変更はありません。上下方向のごくわずかな移動だけです。合気道のお上手な人はこれが天然にできるのですごいです。動くときは体を垂直に保ちながら体がぶれなく動いています。ビデオを見るときにこの点に注意してみるとその技を行っている人のレベル,技量が分かってしまいます。怖いですね。

 正しい姿勢,合気道ではきちっと半身で三角体ができている状態,この状態では,丹田と体の重心の位置は一致します。体を傾けたりすると丹田の位置と重心の位置は乖離してしまいます。合気道の姿勢が大切だということが分かります。腰痛に効くツボは,背中の左右ににある志室 ししつ という部分です。ここを親指の腹押すと,腰痛が瞬時に解消し,背筋がびしっと伸びます。左右の志室の間にほぼ丹田の場所があるのも面白いです。

 次のエッセイでは,いよいよ垂直に保っている体の体重を使った重力掛けを相手にどのようにかけていくかのお話をしたく思います。合気道の極意技は「気を合わす」などの言葉で表せるような単純なものでなく,かなり精密な動きのコントールが必要なことがわかります。ただ,武田惣角たけだそうかく先生植芝盛平うえしばもりへいのような天才的な武道センス・能力をお持ちの方は別です。このようなことができる人が存在すること自体すごいですね。当方は一生懸命その原理を紐解いているだけなのですけど,その原理を用いて天才技を一般の人でも再現できたらうれしく思います。

ではでは。

合気道エッセイ その1 ⑨ 垂直の体勢のまま体重を相手に掛ける

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com