合気道エッセイ その1: ⑨ 垂直の体勢のまま体重を相手に掛ける

合気道エッセイ その1

 合気道の極意は,三つのポイントに大きくまとめると重力 じゅうりょく前腕伸張力 ぜんわんしんちょうりょく真中 まなか となります。どれも空気のような存在です。風が吹かないとなかなか空気を感じられませんし,じゃがむ時に筋肉を使わず,膝の力を抜いて重力のお世話になっていることも当たり前すぎて意識できていません。
 ここでは,なかなか自覚できないこれら合気道のポイントを使って,自分の体重を任意の場所にかける方法をお話します。

(垂直の体勢のまま体重を相手に掛ける)
 丈夫な木でできたテーブルや机の前に立ちます。ここでは机とします。机の上に左右どちらかの手のを載せて,その甲の上に他方の手を重ねます。左右の腕の長さは同じなので真中の状態はできました。この手を通じて体重を机にかけてみます。その時,自分の体の動き,腕の動きを観察します。普通,体重を掛けようとすると体を机に接している手の方へ傾けます。腕を通じて押すようにしていますが,肘が曲がる動きをしてしまいます。傾けた分だけ肘が曲がってしまいます。ちょうど肘がスプリングのようです。
 今度は,体重を掛けようとするとき,胸を張り体は垂直に腕を突っ張り,同時に膝カックンの要領で膝を抜きます。一瞬,体が宙に浮き,この浮いた体の体重を手を通じて机につたわります。腕を突っ張ることは,肘の内側,内肘の角度が増大することで確認できます。手のひらを通じて60kgの体重が,瞬時に机に伝わった状態です。机はビシッと音をたてるかもしれません。机が壊れないことを祈っています。
 ここの注目点は,手を伸ばすという操作です。手を伸ばすのことに対して,人は力を感じないと以前の合気道エッセイで話しましたが,まさに手を伸ばした時には,人間,人類80億人のどの人も力を感じることはできません。力を感じるのは上腕の屈筋,力こぶの部分だけです。これを認識することが,合気道の極意動作を理解し,体現につなげることができる手段となります。これを前腕伸張力と呼びました。

(目が点に: 手を中心に一回転)
 合気道で,相手が片手で片手を掴んだ時の崩しの一つに,自分の腕を掴んだ相手の手の甲に他方の手を載せこの重力掛けで相手を崩す方法があります。相手にとってこれは腕が瞬時に60kgの重さで引っ張られると同じで首が鞭打ちになるほど強烈です。これを行うときには必ず相手に首が故障していないかを聞いてから行います。
 インドネシア ジャカルタの合気道道場でのこと,この重力崩しを説明してるとき,相手の掴んだ手に重力掛けをするや,手を掴んでいた人が,掴んだ部分を中心に宙を一回転しました。私もびっくりしましたが,見ている方も目が点になっているのがよくわかりました。参加していたジャカルタ駐在のポーランド大使館員は,ビデオに撮っていいかと許可を求めてきたのもそれを物語っています。
 人は自分の理解を越えた現象を目にしたときに,顔から表情が消え,目が点になります。合気道では,目が点になることを多々見てきました。次は,別の目が点になるお話です。

ではでは。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com