合気道エッセイ その1: ⑥ 全方位を瞬時にみる方法

合気道エッセイ その1

 合気道のキーとなるポイントとして,体重のお話をしました。ここではまず体重をゼロにすることからお話します。

(駿速の転回)
 自分の正面と左右を見るには,目を凝視しなければ前を向いたまま左右180度を見ることができます。まずは自然体で立ちます。自然体から、足の親指の付け根の拇指球ぼしきゅうを中心に両足の位置はそのままに右に体を回します。右足が体に対して前足になり、その前足の内側の線が右に90度の位置まで止めます。左足は、後足になり前足にほぼ直角になります。これを右半身といい,右90度を中心に左右180度見ることができます。
 今度は,左右の拇指球を中心に体を左に180度めぐらせます。左足が前足になり,これを左半身といい,初めの自然体の左90度を中心に左右180度見ることができます。通常,両拇指球を使った体の動きの時間は0.2秒です。この動きを転回足てんかいそく,てんかいあしといい,360度を0.2秒でみることができます。

(さらに駿速に)
 ここから,体重をゼロにして,転回足の速度を上げる方法をお話します。左右の拇指球は床の上に載っているので,床と足の裏との摩擦で回転する速度が制限されます。体重をゼロにする方法は,子供の時に遊びでやった膝カックンの要領で,膝の力を抜き (膝抜き) ます。膝が体を一瞬支えられなくなります。
 すなわち,体が宙に浮いた状態です。足の裏は床に接触していますが,体重を床に伝えていません。したがって,摩擦力=荷重×摩擦係数の内,荷重がゼロになるので抵抗がなく瞬時に体の重心を中心に転回することができます。

(膝カックンと2㎜の落下)
 足の拇指球を,猫の足の肉球のイメージで考え,人の拇指球のポヨポヨの厚みを2㎜とします。荷重が抜けてから人の体重が足裏にかかる速度は,このポヨポヨの2㎜の厚みがつぶれる時間,2㎜を体が自然落下する時間と考えます。簡単なため,重力加速度gを10 m/s2として計算すると0.02秒です。これは平均的な人が,短距離走でスタートのバンというピストルの音を聞いてから走りだす速度とほぼ同じです。すなわち人が物事に反応できる時間です。床への荷重をゼロにする膝カックンの時間で転回足 (膝抜き転回足) ができるということは,この時間で360度を見ることができ,状況に対処できるということです。

 すごいですね。目にもとまらぬ速さです。膝への操作で体重をコントロールして転回のスピードを上げ,360度を確認できる。すごいです。

(おまけ)
 自分で転回足の速度を測るには,秒針のある時計の前で10秒ときめて,その間に転回足が何回できるかで調べることができます。色々トライして,全方位を瞬時で見れる方法を試してみてください。どこかで役にたつかもしれません。

次に宙に浮いた体の使い方を説明します。

ではでは。

合気道エッセイ その1 ⑦ 重力掛け

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com