合気道エッセイ その1: ⑤ 真中 まなか

合気道エッセイ その1

 合気道の極意技,「力を使わないで技を行う」ことを理解する二つのポイント,体重と前腕伸張力についてお話しました。三つめは「真中」です。これを「まんなか」でなく「まなか」と読みます。合気道の創始者植芝盛平うえしばもりへい翁がよく道場で語っていたと,大阪の小林裕和ひろかず先生の指導の時に聞きました。

 この真中がどうすごいのかを,試してみます。相手を一人選んで,前に自然体で立ってもらいます。お互い自然体で右手を握手するように手を出します。体は傾けず相手に正対させ,ただし握手するのではなく,手のひらと手のひらを縦に合わせます。手の位置はそのままに相手にすこし押してもらいます。同じく押し返して相手の強さを感じ,強さを記憶します。この時の手の位置は自分の真ん前,腰の位置です。次に相手に少し横に移動してもらいます。まずは30度ぐらいが適当と思います。こちらは腕の力を抜いて,合わせた手が約30度右に移動させます。相手は自然体で,手の位置は,自己の前,一方自分の体も自然体ですが,自分の手は右に30度の位置です。同じように相手に手のひらを押してもらいます。あれ,相手の力が強くなっている。自分の力が弱くなっていると感じられたらこのテストは成功です。60度,90度,120度と位置を変えて同じことをやってみてください。120度を越えると力が入らなくなります。

 自己の真ん前がもっとも力がでることがわかります。台所で包丁でまな板の上の物を切るときに,自然と自分の前で包丁をつかっています。腕の長さが左右同じですし,当たり前のようですが,この位置が最もパワーでるとの認識は残念ながらできていません。ゴルフ,野球,テニス,いずれをとっても自分の体の前,真中でヒットすると最大のパワーがでること,これを合気道の創始者植芝盛平翁は,「真中まなか」の言葉を使って伝えようとしていたのです。気持ちが先行すると体が開いたりしてしまいます。「ためが必要」などと聞いたことがあろうかと思います。原理はインパクトは真中で行うことなのですね。真中から外れればそれだけ自分のパワーがそがれることになります。

 合気道の技法的には,相手を自分の真中へ誘導すると相手は力の増大を感じ,抵抗を躊躇します。真中への誘導は,相手に持たれた手を真中へ移動させる方法と,自己の体を動かし作用させようとする部分を体の真中へ持ってくる方法があります。ここでは,真中まなかという言葉が,合気道の技法,極意技に大切なのだと記憶してもらえればと思います。これを身体的物理学と私は呼んでいます。Physical physics 英語にすると面白いですね。

 合気道の合気の三原則は,体重,前腕伸張力,真中としています。最初の体重ついて,「時間」をからめて次のエッセイで,原則を「体重」でなく「重力」とするお話します。

 真中中心という言葉に変えて,合気道の技法のでは残っていますが,小林裕和先生が伝えてくれた開祖植芝盛平翁が稽古時に言われていたという,真中,「まなか」の言葉が現在の合気道技法の中に残っていないのは寂しいです。

ではでは。

高橋達人 tatsuaiki7@gmail.com