国際単位系のあれこれ6

単位とは何か

物の長さや高さ、時間、温度など自然科学や技術で扱う量を「物理量」といいます。化学や地理で扱っても「物理量」で「化学量」や「地理量」とは言いません。この物理量を定量的に正しく扱い伝えるためにそれぞれ使う単位を決めています。そして、

物理量=数値×単位
として、この数値により物理量の大きさを表します。この式は、ごく当たり前に思えます。しかしこの式こそ単位の根幹なのです。この式の意味は、大きさは決められた量の何倍かで表すということです。つまり単位はこの決められた量のことで物理量の一つです。一方、何倍かを表す数値は単位という物理量と一緒になることで意味を持つので、比率など単位が不要でない限り単独で使うことはありません。

それぞれの物理量に対して単位を決めないとその大きさを表すことはできません。但しどの程度はっきり決めなければいけないかは、その時々で変わります。

家の中で戸棚と壁との隙間に不要なものを押し込もうと思ったとします。その時はあり合わせの紐で隙間の幅を写し取り、押し込もうとする物に当てれば入るかどうかが分かります。ここではこの隙間の幅が単位であり、押し込もうとする物の幅が物理量です。この単位はそれ以上伝える必要もないのでこれでも十分です。

隙間に入る箱や家具を店で探したいと思った場合はこの幅を正確に記録して売り場で比べる必要があります。出かけて行けば印をつけた紐でも使えないことはありません。しかし紐ではメールや電話で売り場に聞けません。日本だと普通メートル法の物差しや巻き尺を持っているので、センチメートルを単位として隙間の幅を測り売り場に伝えれば明確に回答がもらえます。

メートル法が普及しているところならば世界中どこでもこの隙間の幅を伝えることができます。残念なことにアメリカなど一部の国では普段このメートル法を使っていません。そうなると伝達が面倒になってきます。それぞれの国で使っている長さの単位の一方がもう一方の単位の何倍かつかんでおき、伝達時にはそれを乗じたり除したりしなければなりません。1万ドルは換算すると約100万円というのと似ています。ただし通貨と異なり変動はしません。

1 in(インチ) = 2.54 cm (1 inという物理量は2.54という数値とcmという単位の積に等しい)

5 in = 5 × 1 in = 5 × 2.54 cm = 12.7 cm
と、使っている単位の異なるところとはこのようにして伝え合います。この面倒を取り除く意味でも統一した単位が必要になるのです。

原油1バレルが80ドルになったなどの報道を目にすることもあると思います。それでは原油1 L当たり何円でしょうか。石油の場合、1バレルは158.987 294 928 Lです。1ドル130円とすると1バレル10400円なので、65.4円となります。計算すれば分かりますが報道された瞬間にガソリン代がどうなりそうかなど理解することは困難かと思います。これが1 m3当たりや1 L当たりの価格であればドルを円に換算するだけなので見当が付くのです。

物理量は数百種類かそれ以上あるので、単位の種類も多種となります。単位は基準となる物理量なので自然科学や技術に関係する人々全員が共通して使える必要があります。共通に使える単位をそれぞれに基準を作って多種用意することは合理的でないので、単位を組み合わせて使うことにしました。例えば速度ならば長さを時間で割って求めるので、速度の基準を作って単位とせず、長さの単位を時間の単位で割ることで速度の単位としています。これがメートル毎秒(記号m/s)という単位です。このような単位を組立単位と言います。この組立単位は新たに基準を作らなくてもメートルと秒を知っていれば皆が使うことができます。膨大な種類の物理量に対して基準となる物理量を減らすことができます。

それでは、すべての物理量に対応する組立単位を作るには基本単位はいくつあればいいのでしょうか。実はこの解答はありません。可能な限り正確な値が得られる物理量を数種類選んで基本量とし、その基準となる測定単位を基本単位にします。基本量が多いとそれぞれの基準を正確に定めるのが大変になります。一方で少ないと物理量を表現するのが面倒となります。例えば基本量のひとつである物質量は原子や分子などの個数を基準との比で表しています。何個あるということはわざわざ基準を決めなくても表すことは可能です。しかしながら化学物質を扱うとき、数gでもその中には1023個前後の原子や分子があり、個数で表すと数字が20以上並ぶようになり大き過ぎて使いにくいものとなります。そこで、約6×1023個を1モル(記号mol)として扱いやすい小さい数字にしています。決められた数を箱詰めとして果物を箱単位で売ることを想像してください。それと同じ考えです。正確な定義は後で述べます。このモルがメートルや秒と同じ基本単位になります。また、光の明るさを表す基本単位カンデラ(記号cd)は明るさがエネルギーの量なので無くても表現や伝達は可能です。しかし可視光の分野での有益性を考えてそのまま基本単位となっています。

現在では、長さ、質量、時間、電流、熱力学温度、物質量、光度の計7個を基本量としてそれぞれ基本単位を決めています。単に温度と言わず熱力学が付いている理由は後で述べます。 この基本単位から多種の組立単位を作り出し、速度、加速度、力、エネルギーなどの物理量に対応しています。