国際単位系のあれこれ12
SI組立単位
表現したい物理量の基準となる単位も物理量に合わせて作る必要があります。この単位は基本単位の組み合わせで作ります。例えば速度はどのくらいの時間にどれだけ進んだかということなのでメートル毎秒(記号m/s)となります。加速度はどのくらいの時間をかけて速度がどれだけ変わったかということなので、速度を時間で割ります。そこで単位もメートル毎秒毎秒(記号m/s2)となります。
力はどれくらいの質量のものにどのくらいの加速度を与えられるかで表します。そこで単位も加速度の単位に質量の単位を掛けてキログラムメートル毎秒毎秒(記号kgm/s2)となります。だんだん単位が長くなってきました。そこでよく使われる単位には固有の名称と記号を付けています。力の単位はニュートン(記号N )です。意味はキログラムメートル毎秒毎秒と全く変わりません。他にも20種類ほどの固有の名称と記号を持つ組立単位があります。
この組立単位を作るときに重要なことは、使いやすいからといって100倍するとか1万分の一にするとかいうことが許されていないということです。今の基準は1 mや1 kgが基準ですが最初は1 cmや1 gが基準でそれを基に組立単位も作られていました。今もその名残りが残っていて、公式の規格にも出てくることがあります。これらは今の組立単位と10の整数乗倍の関係を持つ場合が多くあります。電磁気の分野ではアンペアを基準にする前の単位があり、必ずしも10の整数乗倍の関係にはなりません。将来、慣用で使われているものを含めすべて統一するまでは旧来の単位との関係を知っておいたほうが良いと思います。
全て1倍で組立単位を作ると、やたら大きくなったり小さくなったりします。その例の一つが圧力です。圧力の単位はパスカル(記号Pa)ですが、大気圧でも概略100 000 Paと大きな数値になります。これでは数字が大きく扱いにくくなります。そこでこの組立単位や基本単位を使いやすくするため接頭語を使います。
単位は基準となる物理量であるので、基本としては固有の名称を持つ組立単位を使っても基本単位の組み合わせを使っても構いません。また、どの固有の名称を持つ組立単位を使っても元の組立単位の組み合わせと同じならば構いません。しかし、実際に勝手に使われると大なり小なり不都合が起きます。
例えば、エネルギーの単位ジュール(記号J)の代わりにニュートンメートル(記号Nm)を使ってもルール通りです。しかし、誰にもわかりやすく伝えるという本来の考え方にはそぐいません。というのは、力のモーメント、つまりどれくらい物を回す力があるかを示そうとすると、てこの原理で力の大きさと支点からの長さの掛け算になります。そうすると力と長さを掛けることとなり単位はニュートンメートル(記号Nm)となります。これをジュール(記号J)としてしまうと受け手が混乱してしまいます。そこで、個々の物理量に対して推奨する組立単位が決まっています。
他にも同じ次元を持っている組立単位で使い道を決めているものがあります。例えば毎秒(s-1)はくり返しする現象の周波数や振動数にも、時間当たりの計数にも使われる組立単位です。この組立単位に対し周波数や振動数の様に同じことが周期的に繰り返すことに対してはヘルツ(記号Hz)を使います。放射能は確率的に発生する現象の統計値なので周期性はありません。この場合にはベクレル(記号Bq)を使います。
平面角を表すラジアン(記号rad)は円弧(長さ)と半径(長さ)の比なので次元は1です。角度は0.8ですなどと書かれても理解しづらいので、単位を決めて使います。0.8 radなどどなります。立体角はその角度が作る球体表面の面積と球体半径を1辺とする正方形の面積の比なのでこれも次元は1です。次元が同じだからとラジアンを使うと混乱するのでステラジアン(記号sr)を使います。摩擦係数は力の比なのでこれも次元は1です。ただしこの場合は誤解を招かないので単位を何も書きません。静摩擦係数は0.5などと書きます。
この考えを広げ、現在、以下のような固有の名前を持つ組立単位が決められています。
組立量 | 組立単位固有の名称 | 固有の記号 | 基本単位及び 組立単位による表し方 |
平面角 | ラジアン | rad | rad = m/m = 1 |
立体角 | ステラジアン | sr | sr = m2/m2 |
周波数 | ヘルツ | Hz | Hz = s-1 |
力 | ニュートン | N | N = kg・m/s2 |
圧力、応力 | パスカル | Pa | Pa = N/m2 |
エネルギー | ジュール | J | J = N・m |
電力 | ワット | W | W = J/s |
電荷 | クーロン | C | C = A・s |
電位 | ボルト | V | V = W/A |
静電容量 | ファラド | F | F = C/V |
電気抵抗 | オーム | Ω | Ω = V/A |
電気コンダクタンス | ジーメンス | S | S =Ω-1 |
磁束 | ウエーバ | Wb | Wb = V・s |
磁束密度 | テスラ | T | T = Wb/m2 |
インダクタンス | ヘンリー | H | H = Wb/A |
セルシウス温度 | セルシウス度 | ℃ | ℃ = K |
光束 | ルーメン | lm | lm = cd・sr |
照度 | ルクス | lx | lx = lm/m2 |
放射能 | ベクレル | Bq | Bq = s-1 |
吸収線量 | グレイ | Gy | Gy = J/kg |
線量当量 | シーベルト | Sv | Sv = J/kg |
酵素活性 | カタール | kat | kat = mol/s |
この中で、シーベルト(記号Sv)は特別扱いです。HzとBqやJと力のモーメントに用いるNmは次元は同じでも異なる物理量です。それらに別の単位を使うことは合理的です。しかし、GyとSvは同じ物理量を対象としています。Svは放射線という人間にとって重要な物理量を被害の程度という尺度で分かりやすく伝えるためにあえて採用したと推定されます。
電気の分野では、使いやすさのために決められている単位があります。ボルトアンペア(記号V・A)です。交流の場合、電力は単純に電圧と電流の積では求まらないことから来ています。回路によっては電圧の変化と電流の変化にずれがあり、そのときには単純な積より電力は小さくなります。この単純な積を皮相電力といいます。本当に消費した電力は有効電力といいます。そしてその差を無効電力といいます。電力の単位はワット(記号W)で、有効電力の単位もワットです。一方で、皮相電力や無効電力の単位はボルトアンペア(記号V・A)となっています。SI単位ではありませんが、無効電力ではバール(記号var)の使用も認められています。SIでは単位には基準量としての意味以上のものを持たせないのが原則ですのでこれらは例外と考えてください。 組立単位にはこれら以外にも面積のm2、体積のm3、速度のm/s、加速度のm/s2などの多くのものがあります。