国際単位系のあれこれ9

質量の単位

まず、重さでもなく、重量でもなく、質量という言葉を使うことに注意してください。重量は地球の万有引力によって引かれる力のことです。質量は地球と関係なく、そのものが持っている性質です。地上で測る限り重量はどこで測っても数百分の一以上の差はなく質量と重量を区別しなくても日常生活での不都合はほとんどありません。しかし、人工衛星では地球引力による重量は消えます。引力によって人工衛星もその中にいる人間も荷物も一緒に地球の方向に曲がることで地球の周りを回っています。そのため、見かけ上引力はあたかも無いようになります。そのため重量もないことになります。

重さが何を意味するかは決まっていません。日常会話の中で質量や重量のことに使っています。厳密に表現したいときには使いません。

質量は力を加えた時の動きにくさです。同じ力を加えても質量が大きいと動きにくく、小さいと簡単に動きます。この性質は地上でも人工衛星の中でも変わりません。そこで自然科学では質量を使って考えていきます。

質量の基準は、1 cm×1 cm ×1 cmの立方体の水の質量から決めました。これを1 グラム(記号g)とし、その1 000倍の質量の白金・イリジウム合金の塊を作り、基準にしました。この合金の塊を国際キログラム原器といって、フランスに保管されていました。白金・イリジウム合金は空気中の酸素などと反応しにくく安定なのですがそれでも年月とともに変化して来ました。同じ様に作ったもの6個同じ場所に保管していたところ、100年間で最大50 µgのばらつきが出ました。しかし基準そのものの変化から出た結果なので定義を変更することはできません。時計のようにいつだれが測っても変わらない基準が望まれていました。

そこで、2018年11月に新しい定義に代えることが決まり、2019年5月20日に改定されました。新しい定義は、
キログラムはプランク定数hの値を正確に6.626 070 15×10-34 Jsと定めることによって設定される。
というものです。でも、これではプランク定数も分からないし、これがなぜ質量の基準となるかも分からないと思います。

少し質量と離れた話をします。光は光子と呼ばれる粒子の集まりの流れです。光子1個当たりのエネルギーEは光の周波数ν(ニュー)に比例します。赤い光より紫の光の方が周波数が高いので光子のエネルギーも大きくなります。数式で書くと
              E =
となります。

ここに出てくる比例定数h がプランク定数です。また、エネルギーEと質量mの間には光速をcとした時に
E = mc2
の関係がある事が分かっています。

これは、エネルギーEを持っている粒子などの質量mがそのエネルギーに相当する分だけ増えること意味しています。これらを組み合わせ新しい質量の定義と実際に日常で受け取る質量をつなげます。元々、プランク定数hはキログラム原器の質量基準を基に科学者が求めた値なので、今度はそれを逆にして質量の基準としたわけです。

ただ、光子1個のエネルギーの話なので通常扱う量とは1兆の更に1億倍程の開きがあります。そこをどうつなげるかはここでは書きませんが、精密な天秤などを使うことや、半導体の性質などいろいろ使っています。物理を勉強した後に調べてみてください。

キロ ( 記号k ) は本来接頭語なのですがキログラム原器が基準となったことから基準としての単位ものちにキログラム(記号㎏)となりました。基本単位であるのに接頭語付きという例外的な単位となりました。しかし特に支障もないということでそのままになっています。原器は基準でなくなったのですが基本単位はそのままキログラムとしています。

もともと最も密度の高くなる温度での水の質量から決めたのですが、キログラム原器を基準にして精密に測定した水の質量は4万分の1ほど軽い値となっていました。これは新基準でも変わりません。

実際に物の質量を測定する場合は、プランク定数をその都度持ち出すのではなく、キログラム原器の様に管理された分銅の質量を精密に測定しておき、それを基に世にある分銅や秤を較正します。較正の時は、矛盾するようですが管理された分銅に働く重力つまり重量と測りたい物の重量を比べることになります。2つが近くにあるのでそれぞれに働く質量当たりの重力は同じとみなしています。天秤の2つの皿に載せて働く重力の強さを比べます。真空中ではいいのですが空気中では浮力が問題です。水から浮力を受けるのと同じように空気からも浮力を受けます。分銅と同じ密度ならば体積が同じなので空気による浮力は等しく問題はありませんが、密度が異なるとそうは行きません。密度が小さいものは同じ質量でも体積が大きくなり空気から受ける浮力も大きくなります。そこで、正確に質量を測定するときには仮に求めた質量と予め得ていた密度から体積を求め、浮力を計算して補正します。浮力は空気の密度に比例するのですが密度は測定した時の温度や気圧で変化するので正確に計算しようとすると簡単ではありません。

日本の尺貫法では、貫や匁(もんめ)を使っていました。1貫は3.75 kg、1匁は3.75 gで1貫= 1000匁の関係があります。今は使ってはいけません。アメリカで使っているポンド(記号lb)は約454 g、オンス(記号oz)は約28 gで1 lb = 16 ozの関係があります。ただ、オンスは測る物によって基準が変わったり液体の量の単位にもなったりするので使い方には注意が要ります。

トン(記号t 1 t = 1 000 kg)は使用が認められています。但し、ヤード・ポンド法のトンもあるので誤解の無いように注意する必要があります。 質量の基準として使うためには世界共通のもので管理運用しているものである必要があります。キログラム以外の単位には基準とするものはなく、物理の世界に限らず商取引などの社会生活や日常の様々なところでもキログラムを使うことが望まれます。