国際単位系のあれこれ10

電流の単位

電流が流れている電線の間には互いに引かれたり反発したりする力が働きます。この力の大きさによって電流の単位を決めていました。1 mの間隔で平行に張った2本の導体に同じ大きさの電流を流した時に導体間に発生する力が1 m当たり2×10-7 N(ニュートン= kgm/s2)の時の電流値を1アンペア(記号A)としました。

時間、長さ、質量に比べややこしいい定義ですが、決めるのに必要な単位はすでに決められており、当時は使用上の問題はありませんでした。ここで新しく出てきた力とその単位ニュートンについては後の組立単位のところで話します。

電流が電子の流れである事が分かり、ひとつの電子が持つ電気の量(電荷)も正確に測定することができるようになりました。これを電気素量といいます。このことから力から求めた電流より、電気素量から求めた電流の方が誤差が小さくなりました。そこで質量の単位キログラムと同様に、2018年11月に新しい定義に代えることが決まり、2019年5月20日に改定されました。新しい定義は
アンペアは、電気素量の値を正確に1.602 176 634×10-19クーロン(記号C)と定めることによって設定される。
というものです。1 s に1019近くの電子からなる1 Cの電荷が流れる電流が1 Aとなります。クーロンは基本単位であるアンペアで定義されているのですが、実質はクーロンでアンペアを定義することとなりました。キログラムと同様に、通常の使い方では定義が変わっても影響はありません。

s、m、kgが小文字で書かれているのに対しA は大文字で書きます。これは物理学に貢献したAmpèreから単位の名をとったためです。

熱力学温度の単位

日本の日常生活ではセルシウス温度(セ氏温度)を使っています。水の融点(氷点)を0 ℃とし、沸点を100 ℃とし、その間を100等分して1 度(記号℃)としました。どうやって100等分するかは長さなどと異なり簡単ではありません。ガラスの温度計では目盛りが等間隔で付いていますが、これは中にある液体やガラスの熱膨張が温度に比例することとガラスの内径が均一である事が前提になっています。それが正しいかどうかは実際に測らなければならず基準にはできません。基準となるのは気体の膨張です。気体を作っている分子の体積が無視でき、理想とみなせるくらいの圧力の低い気体では圧力が一定の場合体積は温度と直線関係にあります。これを基準にして中間の温度を決めることになります。高温では電球の様に熱せられたものから出てくる光の強度や波長―可視光では色―から温度を求める方法もあります。

高地ではご飯がうまく炊けないので高圧釜が要るという話を聞いたこともあるかと思います。沸点は圧力が低いと下がるので基準としてはあまりいいものではありません。理科の実験で沸点の測定をしたことがある人もいるかと思います。フラスコに入れた純水を沸騰させた時の蒸気の温度を測ります。しかし沸点100 ℃の実験結果はなかなか得られません。これは温度計が不正確なのではありません。フラスコ内に外気が入らないように出口を絞ると内部の気圧が上がりそれに伴って沸点は上がります。一方でフラスコのガラスを通して熱が奪われそれに伴って温度計の部分の温度は下がります。蒸気の温度を100 ℃にするのは容易ではありません。

沸点ほど変化は大きくはないのですが水の融点も圧力の影響を受けます。水の融点、つまり氷点は圧力が高くなると下がる性質があります。スケート靴の下の氷が圧力のために融点が下がり溶けるのでスケートができるのです。これらのことから、氷点も沸点も基準として扱うにはいろいろな課題があります。

気体の体積は温度を下げていくと小さくなります。測定はできないのですが約‐273 ℃で0にとなる直線になります。この0となる温度が絶対零度と呼ばれるようになりました。これはこれ以上低い温度は存在しないという意味です。

これらのことから、正確な基準を決め直し、絶対零度を0とする新しい温度目盛りが決められました。これが熱力学温度です。水の融点や沸点に代わる基準には水の三重点が選ばれました。三重点とは固体(氷)、気体(水蒸気)、液体(水)が共存する温度と圧力の状態です。水と氷が共存する0 ℃の水蒸気圧は大気圧の101 300 Paよりも小さい611 Paなので三重点の温度は0 ℃より高くなり0.01 ℃となります。また絶対零度は-273.15 ℃と求められました。三重点の温度と絶対零度との差は
0.01 ℃ - ( -273.15 ℃) = 273.16 ℃
となります。このことから、温度の単位はケルビン(記号K)、1 Kは水の三重点の1/273.16と決められました。

しかしこれには問題がありました。水の三重点は、使う水によって差があります。不純物を除いても差があるのです。水分子を作る水素と酸素にはそれぞれ質量が異なる原子があります。これを同位体といいます。同位体の比率は地球上の場所によって異なるので0.000 1 K前後の差があります。また、水という特定のものよりも温度が意味するエネルギーそのものによって定義する方がふさわしいと考えられました。

そこで、2018年11月に新しい定義に代えることが決まり、2019年5月20日に改定されました。新しい定義は
ケルビンは、ボルツマン定数の値を正確に1.380 649 0×10-23ジュール毎ケルビンと定めることによって設定される。
というものです。前2つと同様に、通常の使い方では定義が変わっても影響はありません。

ここで、ジュール(記号J)は後で説明しますがエネルギーの単位です。ボルツマン定数は、温度と分子が持つエネルギーの関係を結ぶ比例常数です。分子が持つエネルギーが0 Jの時温度は0 Kとなりこれが絶対零度です。

以前は温度差を表すときに良くdegが使われていましたが、今は使われません。温度差の単位もKです。英語でセ氏温度を表すとき一部にdegree centigradeという言い方があったのですが角度単位と混同するので使われません。degree Celsiusといいます。また、熱力学温度のことを絶対温度という言い方をしている場合もありますが、正式ではありません。

基準がセ氏温度から熱力学温度になったことで、セ氏温度の数値は熱力学温度の数値から273.15を引いた値となりました。熱力学温度をTとし、セ氏温度をtとすると

t / ℃ = T / K - 273.15
となります。これを単位を省略して

t = T - 273.15
と書いてはいけません。物理量=数値×単位の原則はいつでも守らならければいけません。