「その時私は」物語:たつひとのスキューバ その2

【そもそものきっかけ】
 当時は,製鉄所の鋼を作る部署で,1600度の高温の溶鋼を精錬する容器をメインテナンスする仕事をしていました。高温の鋼を入れる容器には耐火物を使います。一方,鋼を作るときに副産物として発生するスラグがあります。耐火物もスラグも同じ無機材料ということで,私の部署でスラグの有効活用を任されました。この製鋼スラグの主成分に酸化カルシウムがあり,この元は石灰岩を焼成して作った精錬剤です。焼成時に飛ばした炭酸ガス CO2を元に戻して使い,炭酸カルシウムを主成分とする大型のブロック化に成功しました。そしてこの利用の一つとして考えたのが,サンゴの白化現象,海藻がなくなる磯焼けなどで海の環境上問題になっていた海の修復手段としてサンゴや海藻の着底するブロックとして利用するということです。ブロックのネーミングも「マリンブロック」と名づけました。
 これを実際の海で試験することとなります。ところが,試験するにもその結果は海の中,陸上と異なり設置から成果まで見ることができません。「見てなんぼ。やってなんぼ」のエンジニアとしては,やはり自分で見ないとと,まずは部下に海に潜るために必要なものの調査を頼みました。これが仕事で海と向き合うきっかけです。

【海に潜る仕事】
 海に潜るスキルは近くのダイビングショップでの講習,仕事で使うためには厚生労働省労働基準局が発行する「潜水士」の免許証取得が必要となります。潜るための機材と講習の費用は会社で負担し,二人の部下を選定し,このプロジェクトは始まりました。しかし,すべての最終的な判断は自分でしなければならないのに部下任せでよいのか,また船の上で潜ってみてこいと指示して浮上してこなかったらと思い悩んで,それならと当初タイバー育成のための二人分の費用しか予算化していなかったので,自腹でダイビングの講習を受けCカードと潜水士の免許取得へと進みました。これが私がスキューバを始めたきっかけです。

【Cカード取得へ】
 私は実は海が苦手でした。日焼けがひどく,海に行った後はヒリヒリと大変です。したがって趣味は,大学時代に始めた合気道のほかは,ドライブとスキーでした。海との付き合いは夏休みに子供を海水浴に連れていく以外は,高校の1年の時に千葉館山の臨海学校で1kmの遠泳をやって以来です。
 Cカードの取得でお世話になったのは,福山市新涯町にあったマリンハウス シーパラダイス (山本太代表)でした。若いときに遠泳は1kmやっていて,しかも浮力のあるウエットスーツを着るので大丈夫と励まされてのスタートです。

マリンハウス シーパラダイス

【講習実技】
 まず実技は,尾道海技学院の水深5mのプールで,まずはシュノーケリングからです。
 このシュノーケリングも,英語の綴りはsnorkelingで,発音は/スノーケリング/です。
5mmのウエットスーツにブーツを履き,マスク,フィン,シュノーケルと6kgのウエイトをつけてのシュノーケリングです。これだけでも怖かったです。次は実際に8リットルのボンベを担いでの講習です。特に怖かったのはバックロールエントリーで,かなりの思いっきりがいりました。ここでは,耳抜きはまだ簡単なものの,サイナス (副鼻腔,sinus) の眉間 みけん の痛みを経験しました。さらに水中で大型の水中メガネ,マスクと呼びます。このマスクをとり,再度マスクをつけて中の水を押し出すマスククリアの練習など49分間水深5mのプールの底での訓練しました。地上では,鼻から息を吸うことができますが,水中ではエアは口からで鼻からの呼吸はできません。マスククリアは口からエアを吸って,鼻から息を出し,マスクが外れないようにマスクの上部を下に少し押し付けるようにしてマスクの水を排出していき行います。慣れるまで大変です。
 最終的にOWDのCカード取得には,計5回のトレーニングダイブが必要で,ボートで移動し真鍋島でボートエントリー,山口県須佐湾でビーチエントリーで行いました。これで5回の講習が終わり,

SSIのOWD Cカードをもらうことができました。5回の潜水講習でCカードを取得できましたが,これだけではまったく自信がつかず,色々なところに潜り,経験とスキルを上げることとなります。ちょうどこの時期に専任でスラグの利材化を担当せよとのことで,製鉄所から東京の本社へ異動になりました。そこでスキル向上は,伊豆や相模湾で行うこととなりました。このダイビング技量の向上と経験を増やすことに加え,これから仕事の対象となる海の中が実際どのようになっているのかを兼ねて色々なダイビングスポットで潜ることとしました。週末になると伊豆の大瀬崎,伊東八幡野ビーチ,熱海初島,小田原早川ビーチ,三浦半島の宮川湾などへ出向きダイビングの経験を重ねていきました。

皆さまの「その時私は」物語のお話をお待ちしております。

企画担当 高橋達人 tatsudoc@nifty.com