リレーエセー第 3号 小さな庭の自然を楽しむ

197522 前田榮造

平成元年,千葉県佐倉市に一戸建ての家を買った。各家の境には塀が無く,生け垣に囲まれている緑豊かな住宅街である。それ以前は,11階建ての社宅の4階に住んでおり,一戸建ての家を選択したのは,自然が豊富であり,地面に足を着けて生活したかったからだ。庭には季節ごとの花が咲き,花が途絶えないような人並みの配慮は行っているものの,そのほか,この小さな庭に起こる数々の自然を楽しんでいる。その楽しみには,自然の植物,植物を育てる,庭に来る虫・鳥などがある。

その一つは,自分では植えたつもりのない「雑草」と言われる植物群である。「雑草」のなかにも,可憐な小さな花を咲かせるものが数々あり,その小さな花も楽しい。カタバミ,ニワゼキショウ,ネジバナ,ドクダミ,ブタナ,タンポポ,オニタビラコなどがある。本屋で「雑草と楽しむ庭づくり」という本を見つけた。雑草が生えることで生態系が豊かになるとしているが,それを実感する。庭の芝を刈る時,その小さな花を避けて刈る。

さらに,鳥が種を運んできたと思われる樹木も生えてきた。成長して実を付けるまで何の木か解らないものが多いが,最近名前が解ったものには,イヌビワという直径1cmほどのイチジクに似た実のなる木がある。他家との境界に近い隅っこには,マンリョウが生えているのを見つけた。さらに,ハゼの木が生えているのに気がついた。ハゼは紅葉して赤く染まるので残すことに決めた。

 植物を育てるのも面白い。種まきをして育てる場合と,挿し木などで増やす場合がある。種から育てることを行っている一つはアサガオである。青色の花の種を購入して,蒔いて育て,花が咲き終わったら種を集める。その種を次の年も蒔いて,花を咲かせ実を収穫することを数年繰り返した。すると,花の芯が白くなって,薄紅色に変化したものが現れた。その種だけを集めて毎年咲かせている(写真)。アサガオは突然変異し易く,それが現れたものと推測する。正月飾りに使ったセンリョウの種を蒔いたところ,春になって芽が出てきた。それが今では高さ40cm程にまで大きくなり,多くの赤い実を付けるようになった。さらに,近くの公園でミズヒキやヤブミョウガの種を採取してきて庭の片隅に蒔いたところ,芽が出て花を咲かせた。ムラサキシキブも種から育っている。庭の片隅に7cmほどのサンショウが生えているのを見つけ,鉢植えにして育て,少し大きくなったところで地植えにした。雌雄の樹があり,サンショウの葉からサンショウ味噌を造って食べる。雌樹には小粒でピリリと辛い実がなる。

 挿し木から育てるのも楽しい。近くの空き地にガクアジサイが咲いていたので,その小枝から挿し芽を作って土に差し,根が出てきたところで鉢上げする。少し大きくなったら地植えする。ヤエヤマブキも同様にして庭に植えた。キクも挿し芽で増やせる。正月飾りのキクを水替えして楽しんでいたら,そのうち,キクの切り口から根が出てきた。それを,鉢植えにすることもできた。

 最後は,庭に生きる虫や庭に来る鳥などを楽しむことである。生態系の豊富な雑草に誘われて,庭には数々の昆虫が訪れる。春から秋にかけては,様々な蝶々が飛び回る。様々な小さな甲虫もいる。バッタ類の種類も豊富である。それらの昆虫やその幼虫によって庭の草木の葉っぱが食べられてしまうけれど,それも自然だろう。昆虫を捕食するアシダカグモやハエトリグモが時々現れ,ニホントカゲやヤモリも顔を見せる。アブラムシが樹木に発生したりするけれど,テントウムシとその幼虫はアブラムシを捕食する。農薬は極力使わない。ダンゴムシやゾウリムシ,ミミズは庭の掃除係であり,落ち葉や枯れ草を食べて土に戻してくれる。

 さらに,この庭には幾つかの実のなる樹を植えている。それらの実は,鳥類の餌になる。冬になるとマンリョウやセンリョウの赤い実も鳥たちの餌になり,いつの間にか無くなっている。庭の垣根に植えているサザンカの花が咲き,その蜜を吸いにメジロやヒヨドリがやってくる。それだけでは無い。雑草の庭には落ち葉も堆積しており,昆虫たちのねぐらになっていると思われる。その昆虫や雑草の種を食べに,キジバト,スズメ,モズ,ジョウビタキ,エナガ,シジュウカラ,セキレイ,ムクドリ,ツグミ,アオジなどの鳥たちが庭に来て,落ち葉をかき分けている。

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