陶磁への道 (前編:ビッグバンから粘土誕生まで)

物質の誕生は138億年前のビッグバンが始まりで,その後の恒星内での核融合および超新星爆発における中性子捕獲等によってさまざまな元素が生まれたと考えられている[1a, 1b].これらの元素が集まって太陽系と地球が誕生したのは約46億年前だが,高温の熔融状態 (マグマオーシャン) で起きた重力分離によって核とマントルおよび原始地殻が形成され,その後の原始海洋の誕生とマントル対流によって海洋地殻が形成された[2, 3].大陸地殻の形成に関してはさまざまな議論があるが,それを構成する岩石や火山灰・軽石などのマグマからの噴出物は熱疲労によって崩壊が進み,微細な粒子が水との化学反応によって誕生したものが粘土だ.

エドウィン・ハッブル (Edwin Hubble) は遠方の銀河からの光が赤方偏移していることを1929年に発見した.これは,遠くの銀河ほど高速で遠ざかることを示すもので,これから逆算すれば,138億年前の初期の宇宙は質量とエネルギーが集まって,高温・高密度の状態があったと推定される.ビッグバン理論はこのような初期状態の宇宙が急速に拡大して現在の宇宙になったとする膨張宇宙論だ.そして1965年に報告された宇宙マイクロ波背景放射の存在はこの理論の正当性を支持すると考えられている.

宇宙が誕生した直後に起こった急速な膨張によって,宇宙の温度は急激に低下した.宇宙の温度が低下すれば相転移が起こり,そのときに解放された潜熱が宇宙の膨張を加速する.初期の宇宙で起きたのは宇宙のインフレーション (Cosmic Inflation) なのだ.その後,冷えて生成した超高温のクォーク・グルーオン・プラズマ (Quark-Gluon Plasma) の相転移 (クォーク・ハドロン相転移) によって陽子や中性子が誕生したのだが,これらの核融合によるその後の元素合成は短時間 (宇宙の最初の3~20分間) で終了した[4a, 4b].そのためビッグバン終了後に生成した元素の75% (質量比である.原子数の比なら92%) は1Hで25%は4Heに留まり,それ以外の元素は極めて少なかった.これは2つの4Heの核融合によって生ずる8Beが不安定ですぐに崩壊するため,トリプルアルファ反応によって12Cが生成する確率が極めて低いからだ.なお,電子と原子核が結合して原子を形成したのはビッグバンからおよそ38万年後である.

その後,宇宙に拡がった水素とヘリウムは密度のゆらぎによって再集結して恒星が形成され,その中で起こった核融合によってHeから56Feまでの元素が合成された[5, 6, 7, 8].8Beは不安定ですぐに崩壊するのだが,確率の極めて低いトリプルアルファ反応が起こって12Cが生成すれば,安定核種である16Oも付随して生成する.ビッグバンでは高温・高圧の保たれる時間が極めて短いのに対し,恒星では十分な保持時間があるので確率の低い反応も実現したのだ.なお,恒星における核融合反応は恒星の質量に依存する.膨大な重力エネルギーによって核融合反応を起こすに必要な熱を発生させるためだ.トリプルアルファ反応を起こすのに必要となる質量は太陽の46%であり,核融合反応をさらに進めるにはさらに大きな質量が必要になる[注1].

恒星内での核融合反応の結果,生成したおもな安定核種は4He,12C,16O,20Ne,24Mg,28Si,56Feなどで,これらの元素に加えて水素が宇宙と地球を構成する主成分だ.そしてエネルギーを使い果たした巨大恒星の最後の段階に起こった事件が超新星爆発だ[注2].56Feより重い元素はおもに超新星爆発の際の急速な中性子捕獲と一種の赤色巨星 (厳密には漸近巨星分枝) のなかで起こる緩やかな中性子捕獲およびベータ崩壊によって生成すると考えられている[1a, 1b, 9].地球の上空では14Nが熱中性子 (二次宇宙線として生成された) を吸収して14Cを継続的に生み出しているが,宇宙線による核破砕反応では,Li,Be,Bなどが誕生する.その結果,宇宙における水素とヘリウム以外の元素の総計は約2%に達した.

太陽系および地球が宇宙のガスと塵を集めて形成されたのは約46億年前のことだ.微惑星の衝突合体によって形成された誕生直後の地球ではその衝突のエネルギーが熱に変換された.地球表面への微惑星の衝突は40億年前頃まで継続し,地表は加熱されてマグマオーシャンが生まれた.地球は表面から融解し,金属鉄は中心部に沈んで核を形成し,それを取り巻くケイ酸塩のマントル層も形成された[注3].さらに地球形成の初期段階に巨大天体との衝突 (ジャイアントインパクト説) が起きて,散り散りになった地球のマントルと巨大天体が合体して月を形成したとも考えられている.これは月の化学組成が地球のマントルに似ていることと形成直後の月がマグマで覆われていたことから有力な説と見なされるようになっている.

地震波の伝播速度解析によれば,地球は0.4 wt%を占める地殻,78%のマントル,32%の核から構成され,核は液体の外核と固体の内核からなり,その内核の体積は核の体積の約10%である[2].固体の内核は鉄だが,外核が液体となっているのは軽元素が溶け込んでいるからだと考えられている.地球の中心温度は5,000~8,000 Kで,マントルに接する核の温度は3,800 Kと推定され,その地球内部の熱源は放射性元素の壊変 (235U,238U,232Th,40Kなど) による発熱だと考えられている.なお,地震波の横波 (S波) がマントル内を伝播することからマントルが固体であることに疑いはないが,地球深部のマントルが極めて高い温度にもかかわらず固体を保っているのは超高圧のためだと考えられている.

中央海嶺に噴出して固まったマグマが海洋地殻を形成する.液体のマグマは周囲にある固体の岩石より密度が低いので浮力によってマントル内を上昇したのだが,そのマグマは深部から高温のマントルを構成するカンラン岩が急速に上昇し,温度があまり下がらないまま減圧されたために部分熔融が起こって生成したものだ.海洋地殻は年間数センチメートルの速度で移動し,マントル内部に沈み込んだところが海溝になるから,海洋地殻の年齢が2億年を超えることはほとんどない.海洋地殻はほぼ均一な玄武岩質の岩石で,その厚さは5~7 km でほぼ一定であるのに対し,大陸地殻の上部は花崗岩質で下部は玄武岩質で構成され,その厚さは 20~70 km の範囲を変動する[3].そして平均的な大陸地殻の化学成分は安山岩に近いとも考えられている.なお,陸地は大陸地殻であるが,深さ2,000 mまでの大陸棚と一部の大陸斜面も大陸地殻に含まれる.そして海洋地殻の主要部分は水深4,000~5,000 mの海底に存在する.

大陸地殻はさまざまな時代にできた地塊の集合体だ.ウラン・鉛年代測定法によって地殻に含まれるジルコンの形成年代を求めると,27億年前と19~18億年前に急激な大陸の成長があったことが示される.そして北アメリカ大陸の地質調査では,太古代 (40~25億年前) に形成された安定した地塊 (クラトン) を取り巻くように,原生代 (25~5億4000万年前) およびカンブリア紀以降 (顕生代) の地塊が分布していることが見いだされた[注4].なお,ウラン・鉛年代測定法は,238Uが206Pbに崩壊するウラン系列の半減期が約45億年,235Uが207Pbに崩壊するアクチニウム系列の半減期が約7億年であることを利用した年代測定法だ.マグマが冷却されて生成した新しいジルコンにはウランは含まれても鉛をほとんど含まないから,古いジルコンに検出された鉛はウランの崩壊によって生成したと見なすことができるのだ.そのため,鉛の同位体の存在比を測定するとジルコンの形成年代が求められる.

大陸地殻とマントルとの境界に地震波の速度が不連続的に急変するモホロビチッチ不連続面が存在するのは,下部地殻を構成する玄武岩質の岩石の密度がマントルを構成する岩石 (カンラン岩など) に比べて不連続的に低いためだ.上部大陸地殻には石英,斜長石,正長石が約76%を占め,地表露出部には火山ガラスが加わって79%になる[10].地殻を構成する成分は O,Si,Al,Fe,Ca,Na,K,Mg の順に多く,それ以外の元素は1.4%に過ぎない.マントルがマグネシウムを含むケイ酸塩鉱物から主に構成されるのに対し,地殻はアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物が主成分なのだ[注5].

物質の誕生は138億年前のビッグバンが始まりで,その後は恒星内での核融合および超新星爆発における中性子捕獲等によってさまざまな元素が誕生した.これらの元素が集まって地球が誕生したのは46億年前だが,マグマオーシャンでの重力分離によって核,マントルおよび原始地殻が形成され,マントル対流によって海洋地殻が生まれた.大陸地殻を構成する岩石は水との化学反応によって風化し,そこで誕生したのが粘土鉱物だ.

粘土 (clay) は直径 2㎛ 以下の細かい粒子でできた堆積物のことであり,粘土鉱物 (clay minerals) は粘土を構成する主要な鉱物のことだ.粘土鉱物の特徴は Si イオンを中心とするSi-O四面体のシートと Al イオン (またはMgイオンなど) を中心とする八面体シートによって構成される層状ケイ酸塩が基本構造だ[11, 12, 13, 14].

1:1 型構造の粘土鉱物はカオリン鉱物と蛇紋石に代表される.それぞれの理想化学式は,カオリン鉱物:Al2Si2O5 (OH)4,蛇紋石:Mg3Si2O5 (OH)4である.いずれも四面体シートと八面体シートの2層が積層された構造で,底面間隔は約0.7 nmだ.そして,層間はOとOHが対をなして水素結合が形成されている.なお,ハロイサイトはカオリン鉱物の層間に1枚の水分子層を挟んで底面間隔が約1.0 nmに拡がったものだが,層間に働く結合力は弱く,多くの場合は八面体シートを内側に湾曲して筒状になっている.そして,層間の水分子は脱水しやすく(脱水すると底面間隔は約0.72 nmに縮まる),有機物分子との交換も起こる.

1 枚の八面体シートの両面を 2 枚の四面体シートで挟んだ構造 (2:1 型構造) の代表的鉱物はパイロフィライト (葉ろう石) とタルク (滑石) だ.その理想化学式はパイロフィライトでAl2Si4O10(OH)2,タルクではMg3Si4O10(OH)2である.パイロフィライトとタルクは層間に何も挟んでいないが,層間に正電荷のイオン (Na+,K+あるいはCa2+イオン) を挟んだ鉱物が雲母だ.パイロフィライトにおけるSi4+四面体の一部がAl3+で置換されたので,電気的中性を保つために層間に正電荷を持ったイオンが入り込んだ構造である.そして緑泥石は層間に1 枚の正の電荷を持った八面体シートを挟んでいる鉱物だ.雲母や緑泥石より層間の電荷が小さくなった鉱物がバーミキュライトでスメクタイト (モンモリロナイトはこの一種) は層間の電荷がさらに小さい.いずれも層間には通常2枚の水分子層と少数の陽イオンが含まれる.モンモリロナイトは層間に水分子に加えて各種のイオンを保持する粘土鉱物の一種だが,層間にNa+やCa2+を保持してアルカリ性を示す粘土をベントナイト,水素イオンを保持して酸性を示す粘土を酸性白土と呼んでいる.

粘土鉱物の結晶は一般には微細で,雲母やバーミキュライト (蛭石) のように結晶が大きくなることは稀である.そして一部の粘土鉱物ではシート状の積層構造体がくるりと巻かれた構造となっている.非晶質ないし低結晶質の粘土鉱物であるアロフェンは中空球状の形態 (直径3.5~4 nm) だが,イモゴライトでは繊維状集合体 (直径2 nm のチューブの集合体) の様相を呈する.蛇紋石系のクリソタイルも層状のシートが丸まった繊維状 (直径20~30 nmの管状) の鉱物で石綿の一種 (温石綿) だが,石綿は鉱物名ではなくその繊維状の形状が特徴だから,石綿には角閃石系の鉱物 (青石綿とも呼ばれるクロシドライトなど) も含まれる.これらは湾曲したシート状の積層構造体が巻かれてできた結晶だ.そのため結晶学的には積層構造だが,その外観は繊維状を呈する.

含まれる粘土鉱物によって世界の土壌を分類すれば,(i) カオリナイトに富む土壌 (年代の古い土壌に多い),(ii) スメクタイトに富む土壌 (排水の悪い地域に分布),(iii) アロフェンやイモゴライトに富む土壌 (火山ガラスから生成する土壌で湿潤な気候と排水が良好な地域に分布) に大別される[15].火山ガラスや長石が風化して生成する粘土鉱物はその風化が起こる環境によって異なるのだ.日本の地表の多くは地殻 (日本列島の地殻は12億年前に形成され7億年前に分裂した超大陸ロディニアに由来するが,顕生代における付加体と花崗岩の形成によってその基盤岩が成長した) の上を火山灰が覆って形成されたのだから,それが風化した土壌にはアロフェンやイモゴライトが多く含まれていると推測され,実際に約3万年前に赤城山から噴出した軽石が風化した鹿沼土には多量のイモゴライトとアロフェンが含まれている[11].ただし,アロフェンは時間とともに風化してハロイサイトに変化する[16a, 16b].そのため関東ローム層でも初期段階の立川ローム層を構成する主要な鉱物はアロフェンだが,古い多摩ローム層と下末吉ローム層ではハロイサイト,そしてその中間にある武蔵野ローム層ではアロフェンからハロイサイトへの化学変化の遷移過程が認められる[17].

粘土鉱物は長石などの鉱物が水に溶解して,粘土鉱物として析出する溶解・再結晶過程 (Dissolution-Recrystallization Transformation) によって生成する[10, 18].例えば,灰長石が水と反応してカオリナイトを生ずる反応は,イオンや分子が水中に溶解する第1の過程と水中に溶解した成分が化学結合して粘土鉱物が析出する第2の過程からなる.第1の過程は,

$$\mathrm{CaAl}_2\mathrm{Si}_2\mathrm{O}_8 + 8\mathrm{H}^+ → \mathrm{Ca}^{2+} + 2\mathrm{Al}^{3+} + 2\mathrm{H}_4\mathrm{SiO}_4$$

の溶解反応,第2の過程は,

$$2\mathrm{A1}^{3+} + 2\mathrm{H}_4\mathrm{SiO}_4 + \mathrm{H}_2\mathrm{O} → \mathrm{Al}_2\mathrm{Si}_2\mathrm{O}_5(\mathrm{OH})_4 + 6\mathrm{H}^+$$

による析出反応である.火山灰堆積物からは火山ガラスが崩壊してアロフェン,ハロイサイト,スメクタイトなどが生成する.

析出する粘土鉱物が何になるかは溶液中のイオンの種類と濃度に支配される[10].たとえば,イオン濃度がカオリナイトの飽和点以下の領域では ギブサイト (化学式はAl(OH)3で表される) が生成し,飽和点に達した時点で一旦生成したギブサイトの溶解とカオリナイトの生成に移行する.そして溶液中のイオン濃度がさらに上昇するとカオリナイトの溶解とスメクタイトの生成反応が進行する.100℃以下の地表ではカオリナイトやスメクタイトが主体だが,地下深部の高温・高圧部ではパイロフィライトやイライト (雲母質の微結晶粘土鉱物) が生成する.風化の初期段階ではバーミキュライトやスメクタイトが主体だが,風化の後期にはカオリンやギブサイトが生成する[18].

元素の形成はビッグバンに始まり,恒星内の核融合や超新星爆発によってさまざまな元素が誕生した.これらの元素が集結して地球が誕生し,その表層に地殻が形成された.地殻を形成する鉱物が風化して生成したものが粘土だが,粘土は宇宙における物質形態の最終段階ではない.粘土は熱処理されて土器がつくられ,陶磁への道が始まったからだ[注6].

[注1] 核融合反応では質量エネルギーが熱に変換されるから発熱反応である.一般に過剰な質量エネルギーを有する核は原子番号が小さいものと大きなもので,鉄はそのエネルギー (1核子あたりの質量) が最小だ.したがって,小さな原子核は核融合によって,大きな原子核はアルファ崩壊と核分裂によって過剰なエネルギーを放出する.そして陽子と中性子の数の不均衡を是正する仕組みがベータ崩壊だ.しかし,化学反応が反応前後のエネルギーだけでなく活性化エネルギーにも支配されるように,核融合反応においても正電荷によるクーロン力が核の接近を妨げるから,それを上回る熱エネルギーが必要だ.恒星が重力によって収縮すると重力エネルギーが熱エネルギーに変換されて温度は上昇する.温度上昇は重力エネルギーによるものだから,それは星の質量に依存する[7, 8].温度が高まると次のような核融合反応が始まる[19].(i) 温度が1千万度 (107K) に達すると水素がヘリウムになる核融合が始まる.(ii) 1億度 (108K) に達すると,ヘリウムが燃え始めてトリプルアルファ反応によって炭素,そして酸素が生成する.(iii) 6~7億度 (6~7 × 108K) に達すると,炭素が燃焼して酸素,ネオン,マグネシウムと少量のケイ素が生成する.(iv) 15億度 (1.5 × 109K) に達すると,ネオンが燃え始めて酸素やマグネシウムが生成する.(v) 20億度 (2 × 109K) に達すると,酸素が燃え始めてさまざまな核反応が起こるが,最終的には多量のケイ素,硫黄,カルシウムなどになる.そして,(vi) 30億度 (3 × 109K) 以上になると,ケイ素が燃え始めて種々の反応が起こるのだが,56Niの生成とそのベータ崩壊により56Feが生成されて核融合反応は終了する.このように恒星内部では核融合反応が起こってさまざまな元素が合成されるのだが,それはヘリウムから鉄までの元素だ.そして原子番号の大きな核の反応には総じて高い温度が必要だ.しかも最終段階まで進むのは大質量星の場合で,それより小さな星では途中段階までしか進まない.鉄より重い元素は中性子捕獲によって誕生する.超新星爆発の際に放出される膨大な中性子によるr過程 (rapid process) と一種の赤色巨星 (厳密には漸近巨星分枝) の内部で発生した中性子によるs過程 (slow process) の2つのメカニズムによるものだ.前者は大質量星の最終段階に起こる超新星爆発の際に膨大な中性子が発生し (超新星爆発の起こったときに生成した中性子星の表面からの放出や連星中性子星の合体による放出の可能性が指摘されている),既存の鉄の原子核などに中性子捕獲が次々と急速に起きて生成されるものだ[1b, 8, 9].後者は漸近巨星分枝の内部で発生した中性子が重い核種に捕獲され,その捕獲の繰り返しとベータ崩壊によって次第に重くて安定な核種へと変化するメカニズムだ.

[注2] 木星は宇宙のガスと塵が集まった巨大ガス惑星だ.それより大きく太陽質量 ($M_{\odot}$ = 1.9884 × 1030kg) の8%以下の場合は重力によって収縮するが,中心温度が十分に高まらないために本格的な核融合反応は始まらず (重水素の核融合がわずかに起こって赤外線を放射する) にそのまま一生を終えて褐色矮星になる.太陽質量の8%以上の星では重力によって収縮して温度は上昇し,水素がヘリウムに転換される核融合が起こる.中心部の水素が消費されてヘリウムに変化すれば,燃焼部はコアの周りの球殻に移る.その結果,コアは収縮し,球殻の外層は急激に膨張して赤色巨星へと進化する.太陽質量の46%以上の星ではトリプルアルファ反応によってコアのヘリウムが燃焼し,炭素そして酸素が生成すると赤色巨星への進化が逆行して収縮に転ずるが,ヘリウムの燃焼が終われば,中心部に燃え残りの炭素と酸素,それを取り囲んで燃焼するヘリウム,そしてその外側で燃焼する水素の3層構造になり,その外層は膨張を始め再び赤色巨星 (厳密には漸近巨星分枝) への道を歩み始める.太陽質量の約8倍以下の質量の場合は (太陽も含まれる),炭素と酸素からなるコアでの核融合 (炭素燃焼) は起こらずそれで一生を終えるのだが,外側の水素とヘリウムの層はなにかのきっかけで剥がれ落ちることがあり,それは星を取り巻く球殻上の惑星状星雲となる.星は中心部と外層に穏やかに分裂するのだ.中心部の星は炭素と酸素からなるコアのみとなって,それが冷却されると白色矮星 (さらに冷えて輝きを失えば黒色矮星) になる.自らの重力で押しつぶされた白色矮星の密度は極めて高く,その重力を支えているのがパウリの排他原理による電子の縮退圧だ.チャンドラセカールは電子の縮退圧で支えられる重量に限界があることを指摘した.この限界がチャンドラセカール限界で,太陽質量の1.4倍である.この限界を越えると,白色矮星の中心部の物質は電子を捕獲して中性子になり,さらに収縮して中性子星が誕生する.中性子星の重力を支えているのが中性子の縮退圧だ.中性子の縮退圧にも限界があり,大きく見積もっても太陽質量の2~3倍程度であろうと考えられている.そして中性子星の中心核の質量が太陽質量の3倍以上の場合には,中性子星はさらに収縮してブラックホールになると考えられている.太陽質量の8倍を超える星の場合には,中心部 (C+Oコア) で炭素が燃焼して酸素,ネオン,マグネシウムなどが生成する.核融合反応がこの段階で終了すればO+Ne+Mgコアを持った白色矮星となるのだが,重力収縮によってさらにコアの密度が高まればネオン燃焼や酸素燃焼が始まる.そして太陽質量の12倍を超える星では,炭素,ネオン,酸素,ケイ素のすべての燃焼が起こり,ケイ素が燃焼して鉄を生成し,最後にその鉄のコアが残るのだ.その鉄のコアがさらに収縮して30億度を超えると,鉄は光子を吸収してヘリウムと中性子に分解する.この分解反応は吸熱反応であり,さらに収縮が進む.星の重力崩壊が起こったのだ.星の中心核の密度はますます高まり,中性子のコアとなって星の収縮は止まる.収縮の止まったコアに外側の物質が落ち込むとぶつかって跳ね返される.解放された重力エネルギーによって星の外側が吹き飛ばされるのが超新星爆発だ.白色矮星の誕生では,外側と中心部との別れは比較的穏やかに起こるのだが,大質量星の場合には激しい爆発を伴って別れるのだ.核エネルギーを使い果たせば,太陽質量の0.08~0.46倍の質量を有する星ならば赤色巨星となり,太陽質量の0.46~8倍の質量を有する星ならば外層が離脱して白色矮星 (赤色巨星における炭素と酸素から構成されるコアの部分) へと進化し,チャンドラセカール限界を超えた白色矮星は中性子星に進化する.太陽質量の12倍以上の星では超新星爆発が起こって外層が離脱した後に残るのは中性子星の残骸だが,中性子の縮退圧で支えきれないほど大きい中性子星は直ちにブラックホールに進化するのであろう.実際,中性子星の質量は太陽の数倍程度だが,ブラックホールの質量は小さいものでも太陽の10倍程度で,銀河の中心には超巨大なブラックホールが存在する.なお,太陽質量の8~12倍の質量を有する星については,O+Ne+Mgコアを持った白色矮星で生涯を終える場合とさらにネオンや酸素が燃焼してO+Ne+Mgコアの内側に新たなコアが形成される場合があるようだが詳しい研究はまだのようだ[19].

[注3] 太陽大気の化学組成は太陽系の組成とみなすことができる.また,CIコンドライトの化学組成は原始的な太陽系の化学組成と見なすことができる.これらから地球型惑星の化学組成が見積られ,マントル由来の岩石であるカンラン岩の化学組成と照合すると,マントルでは鉄を含むマグネシウムのケイ酸塩が主成分で,核はニッケルを含んだ鉄で構成されていると考えられた.海洋地殻の温度はマントル対流による熱輸送による寄与が大きく,大陸地殻では放射性物質の崩壊熱による寄与が大きいと考えられている.

[注4] 最古の岩石はカナダのアカスタ地域の片麻岩で40億年前に形成されたものだ.このような古い岩石を含む大陸地殻はマグマオーシャンが固結して原始海洋が誕生した頃に形成されたらしいのだが,30~25億年前と19~18億年前に大陸地殻の成長があったことも指摘されている.これは海底の堆積物と海水を巻き込んだ海洋地殻が海溝に沈み込むとマントルの一部に水が供給され,その融点降下により部分熔融してマグマが発生する.マグマはマントル内を上昇して地殻内で凝固するまでマグマ溜まりに留まるのだが,そこで密度の大きな鉱物が沈降して結晶相と液相の分離が起こる (結晶分化作用).そしてシリカ (SiO2) 成分が高まった液相はさらに上昇し,それらが大陸地殻に付加されて大陸成長が起こったとするものだ.また,海洋地殻が大陸地殻の下に潜り込むときに,海洋地殻の上に堆積した地層 (玄武岩質の海洋地殻の上に珪藻や放散虫を起源とする非晶質シリカが粘土とともに沈着した珪酸質軟泥や円石藻や有孔虫の死骸に由来する方解石を多く含む石灰質軟泥などが堆積し,海洋地殻が海溝に近づくと大陸からの砂岩や礫岩がさらに加わった地層) が陸側のプレートに付加体としてくっついて大陸地殻の成長が起こることも知られている.珪酸質軟泥は付加体ではチャートとなり,それが堆積した年代はチャートに含まれる放散虫化石の形態から同定できる.秋吉台の石灰岩はペルム紀に形成された付加体,伊吹山の石灰岩は珊瑚礁の名残とされる.浸食作用によって大陸から運ばれてきた土砂が海洋地殻の上に堆積し,それが再び大陸地殻に付加されたのだから,付加体の形成は大陸地殻のリサイクルの側面もある.西南日本の太平洋岸は付加体の集合体で構成されている.

[注5] ケイ酸塩鉱物はSiO4四面体がその4つの頂点を共有して連結された構造が特徴だ.石英はSiO4四面体がその頂点を4つとも共有して三次元ネットワークを構成している.多型であるクリストバライトやトリジマイトも基本的には同様なネットワーク構造を有する二酸化ケイ素だ.これにアルカリ金属 (NaやK) やアルカリ土類金属 (CaやMg) を配合すると,三次元ネットワークが分断されて長距離秩序配列が損なわれるため,結晶を構成できずアモルファスすなわちガラス構造となる.長石類 (例えば,理想的化学式がKAlSi3O8で表される正長石やCaAl2Si2O8で表される灰長石) はその三次元ネットワーク構造のSiO4四面体の一部がAlO4四面体に置き換わって構成されたものだ.ケイ素の含有量が下がった雲母 (例えば,理想的化学式がKAl2AlSi3O10(OH)2で表される白雲母) ではSiO4四面体が二次元的に連なった平面ネットワーク構造 (4つの頂点のうち3つが頂点共有して連結) を形成する.輝石 (例えば,理想化学式がMgSiO3で表される頑火輝石) はSiO4四面体が一次元的に連なった単鎖 (4つの頂点のうち2つが頂点を共有して連結) を形成する.そしてカンラン石 (例えば,理想化学式がMg2SiO4で表される苦土カンラン石) では SiO4 四面体の頂点の共有はなく,ネットワークを構成しない.なお,下部マントルのような高圧下での二酸化ケイ素はSiO4四面体ではなく,SiO6八面体が連結した構造となる.地表では稀だが,隕石が地表に衝突したときに生成するスティショバイトである.

[注6] 粘土の成形は容易だが,粒子が細かく粘りが強いので乾燥や焼成時にひずみや割れが起こりやすく,これを防ぐには珪砂 (石英) や長石などの粗粒を加える[20, 21, 22].また緻密な焼結体を得るには高温焼成が有効だが,長石や石灰を加えて素地の熔化 (ガラス化) を促すと,緻密化が推進され透光性も高まる.そのため,一般的な硬質磁器の製造では粘土に珪砂と長石を加える成分調整を行うのだ.焼結温度を下げた軟質磁器には石灰,リン酸,ホウ酸などを加えることがある.釉薬は基本的にはガラスコーティングだ[23].ソーダライムガラス系と鉛ガラス系の釉薬が目的に応じて使い分けられる.高温焼成する磁器の下絵用にはコバルトの藍色顔料が実質的には唯一の選択肢だった.マンガンの茄子紫も利用されたが[20],酸化鉄の鉄絵と銅を使った釉裏紅を利用できるのは焼成温度が1250℃以下のときに限られるからだ[22].焼き付け温度の低い上絵付には鉛ガラスで接着可能な顔料が利用され,緑色の酸化銅,赤色や褐色の酸化鉄に加え,アンチモン黄 (3PbO・Sb2O5) や金襴手用の金液などが使用されてきた.現代では,バナジウム錫黄 (Vが固溶したSnO2) やバナジウムジルコニウム黄 (Vが固溶したZrO2) やプラセオジム黄 (Prが固溶したZrSiO4),ジルコンバナジウム青 (Vが固溶したZrSiO4),クロム錫ピンク顔料 (Crが固溶したCaSnSiO5) やマンガンピンク (Mnが固溶したAl2O3) などの新顔料が現れて豊かなバラエティが実現した[24, 25, 26].ただし,顔料の発色は焼成温度と雰囲気および釉薬の成分に依存するので,顔料の選択の自由には限界があり,これらの適切な組み合わせに留意する必要がある.

後編に続く

文献
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