地球の寒冷化と地表の温暖化を懸念する

原始太陽系星雲の誕生は約46億年前だ.星間雲が収縮して原始太陽が誕生し,その原始太陽を取り巻くようにして形成されたのが原始太陽系星雲だ.原始太陽の放射熱によって星雲の宇宙塵は加熱され,融合して10 km程度の微惑星にまで成長し,その微惑星の衝突・合体によって地球は誕生した[1, 2].サフロノフ (Viktor Sergeevich Safronov) や林忠四郎らによる太陽系形成の微惑星説である.誕生後間もない地球表層は度重なる微惑星の衝突によって熱せられ,熔融した高温のマグマオーシャンで覆われていたと考えられている.

微惑星の衝突は冥王代が終わるころには収束した.有力とされる説によれば,43億年前にマグマオーシャンは冷えて固結し,40億年前に大規模な原始海洋 (38億年前の枕状溶岩が発見されたので,海洋はそのときまでには確実に出現していた) が生まれた[3].もちろん,冥王代の地質学的証拠は極めて乏しいため学説もさまざまで,根拠となるのは研究者の膨らんだ想像力だ[注1].そして冥王代ジルコンのハフニウム同位体分析が行われるようになると,マグマオーシャンの固結は約45億年前に起こり,同時期に原始地殻と原始海洋も形成されたとも考えられるようになっている[4].

地球誕生以降の地球表層とマントルの温度は低下が続いている[3].マグマオーシャンの時代には地表面の温度は1750℃で,地下100 kmでは1900℃だった.冥王代には地表面の温度が600~1100℃,地下100 kmでは1600℃程度で,太古代 (1976年の国際委員会で始生代から改名され,訳語としての太古代の普及は1990年代以降) から原生代における地表の温度は10~100℃で海水は安定し,中央海嶺の地下100 kmでは1450℃だった.そして顕生代の地表温度は0~15℃,中央海嶺の地下100 kmでは1300℃である.

ビュフォン (Georges Louis Leclerc, Comte de Buffon) は1767年に始めた球の冷却実験から地球の年齢を74,832年と推定した[5].直径の異なる10個の白熱した鉄球の冷却時間を測定し,それから地球大の鉄球が白熱状態から現在の地球温度と同じになるまでの時間としてまずは96,670年を得た.次に金属や鉱物の組成を変えた24個の同じ大きさの球を作り,その冷却時間の比から実際の地球の冷却時間として74,047年を得た.そして,地球が冷却する間も太陽と月からの熱を受け取っていることを考慮した最終的な値として74,832年を得たのだ.

1862年にケルヴィン卿 (William Thomson,Baron Kelvin) は岩石の熱伝導率とフーリエの熱伝導方程式を用いて地球年齢を見積もった[6].ケルヴィン卿の推定した年齢は9800万年で,自身の仮定やデータの不確定要素を考慮すれば2000万年から4億年の範囲内に収まることは確実だと考えた.このように19世紀までの地球年齢の推定方法は高温の球体が冷えるまでの時間を計算することだった.この計算結果が地球年齢ではなく,マグマオーシャンの冷却時間を計算していたのだとすれば,生物の進化が長い時間をかけた世代交代によって起こるとする進化論を提唱していたダーウィン (Charles Darwin) が抱いた懸念も払拭されたかもしれない.なお,ケルヴィン卿が言及した不確定要素が放射性物質の崩壊熱であることを指摘したのはラザフォード (Ernest Rutherford) である.1904年の王立研究所で行われたラザフォードの講演を受け入れたケルヴィン卿は,英国科学振興協会の会議で自説を撤回した[6].

微惑星の持っていた運動エネルギーは膨大で1032Jにも及ぶから,このすべてが宇宙に散逸せず一部が地球の加熱に用いられただけでも,地球の温度は途方もなく高くなる[7].これが誕生直後の地球の温度が高かったとする論拠だが,1895年のレントゲン (Wilhelm Conrad Röntgen) によるエックス線の発見に続いて,1896年にはアンリ・ベクレル (Antoine Henri Becquerel) がウランの放射能を発見した.微惑星の衝突による地球誕生直後の突然の発熱だけでなく,放射性元素 (235U,238U,232Th,40Kなど) の崩壊熱が地球を穏やかに内部から加熱していることが明らかになったのだ.そして,鉱物に閉じ込められている放射性元素の同位体分析から,鉱物が形成された年代も決定できるようになった.

地球誕生以来,地球の内部に存在する放射性元素から今までに解放された核崩壊エネルギーの総和は約1031Jである[7].235Uの半減期は7.04億年,238Uは44.68億年,232Thは140.5億年,40Kは12.48億年だから,地球ができてから46億年間でそれぞれの放射性元素の量は減少して235Uは元の1.1%,238Uは49%,232Thは80%,40Kは8%となり,地熱の発生もそれに応じて低下した.内部熱源から生み出される熱量の減少によって,地球内部の寒冷化は必至なのだ.

太陽の放射エネルギーは現在の地球表層の温度を支配する主要な因子の1つだ.太陽からは水素の核融合で発生した熱が電磁波 (おもに可視光) となって放射される.太陽が誕生した当時の放射エネルギーは現在の70%程度であったが,それは増大の一途を辿っている.核融合反応によって中心核の水素がヘリウムに変わるにつれて,わずかに明るく半径も大きくなるからだ.そして約50億年後には赤色巨星への進化が始まる.中心核の水素が燃え尽きてヘリウムに置き換わり,中心核の外側で水素燃焼が起こるようになるのだ.誕生時からいままで太陽は明るさを増し続け,これからも明るくなり続ける[注2].外部熱源が生み出す放射エネルギーの増大によって,地球表層の温暖化は必至なのだ.

現在の地球軌道に届く太陽からの放射エネルギーの大きさは1366 W/m2だ.その一部は雲や氷床などによって宇宙空間に反射されるから,現在の地球が受け取っているエネルギーはその約70%だ[8, 9].平均すると,地表が受け取る太陽からの放射エネルギーは約240 W/m2 (= 1366×πr2÷4πr2×0.7) である.そして暖められた地表からは逆に宇宙にエネルギーを放射する (おもに赤外線) のだが,大気中に赤外線を吸収する成分 (二酸化炭素,水蒸気,メタンなど) が含まれていれば,宇宙に放射されるエネルギーは削減される.なお,地表は地下からも加熱されているのだが,太陽の放射エネルギーに比べれば,この熱量 (地殻熱流量) は微々たるものだ.世界の平均地殻熱流量は,60~65 mW/m2である[10].

地球全体の反射率を惑星アルベドと定義し,大気に含まれる赤外線を吸収する気体成分を温室効果ガスとすれば,地球表層の温度は,(i) 太陽の放射エネルギー,(ii) 惑星アルベド,(iii) 温室効果ガスの3つによって支配される[8, 9].地球が吸収した太陽の放射エネルギーと地球から宇宙空間に放出される赤外線のエネルギーが釣り合うように地表の温度 (惑星の有効温度) は決定されるのだが,惑星アルベドによって地球が吸収する太陽の放射エネルギーは削減され,温室効果ガスによって地球から宇宙に放出されるエネルギーも削減される.これらを考慮すると地球表層の温度を支配する主要な因子は3つになるのだ.

現在の地球の惑星アルベドは30%程度だが,地球がすべて氷床で覆われれば,惑星アルベドは60~80%まで大きくなる[注3].そして,雲も氷床もない月の惑星アルベドは10%程度だ.現在の地球表面の温度は平均して15℃程度だが,温室効果ガスの寄与がなければ-18℃になる.この33℃分の嵩上げが温室効果によるものだ.なお,この値は惑星アルベドを30%の一定値と仮定したときの計算値だ.実際には氷点下の温度になれば地球は氷床で覆われ,惑星アルベトは大きくなるから,これを考慮すれば-40℃程度にまで平均温度は低下することになる.

以上をまとめると,地球誕生時には微惑星の衝突による膨大な運動エネルギーの一部が地球を加熱した.46億年間にわたって,地球を内部から温めていた放射性物質の核崩壊エネルギーの約10倍が地球誕生時に一気に放出されたのだ.その熱の多くは宇宙空間に散逸して地球の温度は次第に低下したが,地球は放射性物質の崩壊によって内部から持続的に発熱し,太陽からの放射エネルギーによって持続的に外部加熱されている.ただし,太陽からの放射エネルギーは可視光が中心だから,その一部は地球表層の雲や氷床によって反射される.また,地球表層が吸収したエネルギーは赤外線として宇宙に放射されるが,大気中の温室効果ガスによって赤外線が吸収されれば宇宙への放射量は減少する.

地球内部の温度については,地球誕生時に盛んに起こった微惑星の衝突による発熱の影響は次第に小さくなった.放射性物質の崩壊による発熱が地球内部の温度をほぼ支配するが,その発熱量は低下基調にある.それに対し,地球外部にある太陽からの放射エネルギーは今後ますます増大する.その太陽からの放射エネルギーの侵入を抑止するのが惑星アルベドで,地球からの放射エネルギーの放出を抑止するのが温室効果ガスだ.氷床が存在する現在の地球は,全球凍結の時代ほどではないにしろ太陽からの放射エネルギーの侵入を精一杯抑止している.また,温室効果ガスの代表格である大気中の二酸化炭素濃度も地球誕生以来,石炭紀と並ぶ極めて低い濃度だから,地表の熱を精一杯宇宙に放出している.

このように地球の温度はさまざまな因子によって支配されるのだが,高温の地球深部と低温の宇宙との境界である地球表層の温度が,海洋が継続的に保たれる程度の温度範囲内に維持されてきたのは温室効果ガスの働きだ.太陽からの放射エネルギーが低かった地球誕生直後しばらくは,高濃度の温室効果ガスによって地球表層の温度は高められ,太陽の放射エネルギーが徐々に増大すると,温室効果ガス濃度は低下して地球表層の温度を下げるように働きが変化してきたのだ.

地球環境は短期的には変動が小さいように見えても,長期的なスケールでは激しい変動のなかにある.そして,現存する生物は変動する自然環境に適応するように進化してきた勝利者の系譜だから,冷え込む地球も温暖化する地表も状況を悪化させる危機以外の何物でもない.次世代を担うべく進化の準備をしているチャレンジャーだけがそれを好機と捉えるのだ.

[注1] ウェーゲナー (Alfred Lothar Wegener) がその著書で大陸移動説を提唱したのは1915年だが,アーサー・ホームズ (Arthur Holmes) のマントル対流説とハリー・ヘス (Harry Hammond Hess) らの海洋底拡大説を経て,プレートテクトニクスが登場したのは1967年の国際測地学・地球物理学連合の会議 (International Union of Geodesy and Geophysics) だった.そして大陸の離合集散の繰り返しはウィルソンサイクル (Wilson Cycle) と名付けられ,1980年頃からは地震波トモグラフィーによるマントル内部の解析が進んだ[11].鉱物の年代測定についての大きな進歩は二次イオン質量分析法 (SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry) で,1980年代半ばに実用化されたシュリンプ (SHRIMP: Sensitive High Resolution Ion Microscope) とよばれる専用装置によって鉱物結晶中の10~15 μmの特定の点の年代が測定できるようになった[11].測定技術の進歩によって,地球科学が研究者の想像力に依存する手探りの状態から,実証的な科学に変貌を遂げたのはそれほど古い時代ではなかった.

[注2] 太陽が赤色巨星へと進化すれば地球上のすべての生命体が焼き尽くされることは否めないが,その時が訪れる前に地球上の生命は絶滅を迎える.日射量が現在の1.25倍になったときには,極めて強力な水蒸気による温室効果によって地表面から水がなくなるのだ[9].地表温度が高まれば,水蒸気分圧も高まり,その水蒸気は赤外線をよく吸収するので,地表から放出される赤外線は水蒸気の大気がすべて吸収してしまい,宇宙に放出されるエネルギーは地表の温度にかかわらず一定量が大気の上空から再放射される.この量が「射出限界」である.地表に入射される太陽の放射エネルギーがこの射出限界を超えると,地表の温度は際限なく上昇する暴走温室状態になる.海水はすべて蒸発してしまい地表はマグマで覆われるようになるのだ.ただし,そのときまで地表に水が残っていることは保証の限りではない.約15億年後のことだが,日射量が現在の1.1倍になると大気上空で水素が光分解して水素が宇宙に逃げるため海水が失われる.その光分解が始まって約10億年後 (現在から25億年後) には海水はすべて失われ,地球上から生命はすべて失われるからだ[8].また,ウォーカー・フィードバックが働いて温度上昇とともに大気中の二酸化炭素濃度が低下するならば,植物が必要とする二酸化炭素濃度を下回ることになって光合成生物が絶滅する.そうなれば,地球の生態系は崩壊してすべての生物は絶滅する.C3植物 (多くの植物) は150 ppm,C4植物 (トウモロコシやサトウキビなど) は10 ppm以下の二酸化炭素濃度になれば光合成ができなくなり,その時が訪れるのは約10億年後だ[8].38億年前に誕生した生命の余命を10億年とすれば,既に寿命の約80%を費やしてしまったことになる.なお,ウォーカー・フィードバックとは,ウォーカー (J. C. G. Walker) らによって1981年に提案された風化反応 (岩石のケイ酸塩が炭酸塩に変わる反応) の温度依存性によって二酸化炭素濃度が一定に保たれるメカニズムだ.二酸化炭素は火山ガスから一定量が大気中に放出されるのだが,二酸化炭素濃度が高まることで温室効果が強く働いて大気の温度が高まれば,岩石の風化が進む.すると二酸化炭素は炭酸塩となって固定化が進み,大気中の二酸化炭素濃度は低下し,大気の温室効果も弱まって気温は低下するといった仕組みだ.逆に,温度が下がれば岩石の風化作用が抑制されて二酸化炭素の消費は低下し,二酸化炭素の濃度が高まって温暖化するといったもので,100万年より長い時間スケールで成立する負のフィードバックである.気温が高まればウォーカー・フィードバックによる二酸化炭素濃度の平衡値は低下する.

[注3] 太陽の放射エネルギー (太陽定数) は地球表層の温度に最も影響が大きいが,雲や氷床は光を反射するので地球の惑星アルベドを高める.氷床が発達すれば太陽光の反射率が高まるので,地球は冷え,氷床はさらに発達する.逆に,氷床が縮小すれば,太陽光の反射率は低下し,地球は温暖化し,氷床はさらに縮小する.このような正のフィードバックが働くから,現代のように地球の一部にのみ氷床が存在することは,特殊な場合を除くと一般的には不安定な状態であり,氷床は発達して全球凍結に至るか,あるいは氷床は縮小して消え去るかのどちらかになると考えられている[12a, 12b].ジョセフ・カーシュヴィンク (Joseph Kirschvink) が仮説として提唱し,ポール・ホフマン (Paul F. Hoffman) が実証した全球凍結 (スノーボールアース) は過去に3回あったと考えられているが (24億年から21億年前のヒューロニアン氷期,7億1700万年前から約6億4300万年前のスターティアン氷期,そして約6億5000万年前から6億3230万年前のマリノアン氷期),現在のように雪線の緯度が80~30度にあるといった部分凍結状態が安定的に成立するには太陽定数が一定の範囲内にある特殊な場合に限られるとされる.それでも,30~20度の緯度まで氷床が到達すれば非常に短期間に (数百年程度) 赤道まで凍り付く[8].30~0度の緯度にある雪線は特に不安定なのだ.しかし,現実にはこの数百万年にわたって間氷期と氷期が交互に到来した[13].この理由を説明するのがミランコヴィッチ・サイクルだ[2, 9, 14].地球の公転軌道の離心率の周期的変化,自転軸の傾きの周期的変化,自転軸の歳差運動という3つの要因により周期的に日射量が変動することを説明する理論である.

文献
1.川上伸一,生命と地球の共進化,日本放送出版協会 (2000).
2.川上紳一,東條文治,地球史が良くわかる本 [第2版],秀和システム (2009).
3.丸山茂穂,磯崎幸生,生命と地球の歴史,岩波書店 (1998).
4.飯塚毅,地球における海洋と大陸の形成,地球化学,50 [3] 121-133 (2016).
5.ビュフォン (菅谷暁訳),自然の諸時期,法政大学出版局 (1994).
6.マリオ・ リヴィオ,偉大なる失敗,早川書房 (2015).
7.松井孝典,地球進化論,岩波書店 (2008).
8.田近英一,大気の進化46億年,技術評論社 (2011).
9.田近英一,地球環境46億年の大変動史,化学同人 (2021).
10.例えば,杉山明,ユーラシア大陸東側の縁海における地殻熱流量分布,地球科学,61 [6] 431-432 (2007).
11.堀越叡,地殻進化学,東京大学出版会 (2010).
12.例えば,(a) 田近英一,凍った地球,新潮社 (2009).
 (b) 田近英一,全球凍結と生物進化,地学雑誌,116 [1] 79-94 (2007).
13.増田富士雄,古気候変動史から見た現在,地学雑誌,100 [6] 976-987 (1991).
14.安成哲三,柏谷健二,地球環境変動とミランコヴィッチ・サイクル,古今書院 (1992).

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