国際単位系のあれこれ20
誤差の表現方法と有効数字
よく、5~10 mとか100±1 mと書くかと思います。これも5と100が単位の無い数字となるので間違いとなります。正しくは5 m ~10 m、100 m ± 1 m あるいは(100 ± 1) mと書きます。
日常生活で5~10 mと書いてあれば、あまり誤解もしません。しかし論文などの正式な文書を書く時に正確な書き方がある事を学んでください。ここで±の前後にスペースを入れていますが、日本では入れなくてもよいとされています。
さらに厳密な話をすると、数学的に(100 ± 1) mは99 mあるいは101 mのどちらかとの意味になり、ばらつきの意味にはならないとしています。このばらつきには100(1) m との表現が推奨されています。誤差が下1桁ですまない場合は100(12) mのような表現になります。これはばらつきが88 mから112 mの間であることを示しています。
ばらつきの話が出たので、有効数字について説明しておきます。ばらつきを厳密に表そうとすると括弧を使った表現となります。ただし、これを表すためには厳密な実験や計算が必要で日常常に表すのは困難です。そこで、実用上簡便に有効数字を使います。
温度計や針で指示する電圧計などでは目盛りの1/10まで読みます。針が目盛の間のどこにあるかを目で見て例えば7割くらいにあれば0.7と記録します。一方測定器を製造した会社は目盛までは正しいことを保証していますが、その1/10は保証していません。また、目盛の1/10まで正確に目視で読むことも困難です。それでも例えば、目盛に対し0.2程度の誤差が見込まれるとき、誤差があるからといって目盛単位で記録すると誤差は0.5に広がってしまいます。これは精度の高い値を得ることに反してしまいます。可能な限り誤差の少ない値を求めます。
加減算をするとき、有効数字の位が高いものに合わせるのが基本です。1.23 m + 4.5 mは5.73 mとせずに5.7 mとします。4.5 mに既に0.05 mあるいはそれ以上の誤差があるので、0.03 mを加える意味が小さいためです。それでは1.23 mを10回足したらどうでしょうか。答えは12.30 mでしょうか。単純な規則に合わせるとそうなりますが、元の有効数字が3桁なので桁数が増えることは不自然です。規則通りに機械的に計算するのではなく、桁数なども注目して判断することも要ります。
有効数字の考えは、厳密な誤差の計算をせず簡便に必要十分な結果を提供することにあります。簡便な分、単純な規則通りで良いか考えて使ってください。
熱力学温度の数値とセ氏温度の数値との差は273.15ですが、この有効数字は何桁でしょうか。5桁と考えたら間違いです。これはセ氏温度の定義に使っている数値なので無限の桁数があるとして扱います。例えば、食塩を溶かした時の氷の融点が-0.123 ℃だったとします。これの熱力学温度はいくらでしょうか。有効数字について単純に考えて四捨五入し、273.03 Kとしたら間違いです。273.027 Kが正解となります。273.15は桁を測定値に合わせて273.150と考えてください。
1 mは光が時間 1/299 792 458 sに進む距離と定義されています。この数字も有効数字は9桁ではなく小数点以下に0が無限にあると考えてください。
測定によって得た値には誤差があり、有効数字の考え方ができます。一方、定義に出てくる値は測定値ではないので表現された数値には誤差はありません。定義にある数値と測定値を組み合わせるときには間違いの無いように注意する必要があります。
単位と物理の理解
以上、物理に出てくる単位の意味、単位の種類、単位の使い方について学んできました。これを理解すれば科学に関するどのようなことも、相手の国や専門と関係なく、定量的に正しく伝えることができます。また、逆にどのようなことも定量的に正しく理解することができます。
それだけではありません。ここに出てきた固有の名称を持つ組立単位や解説した組立単位は物理の中心となる法則から導き出されています。これらの単位を理解することは物理の中心を理解することに他なりません。ぜひ単位を理解して物理そして科学を自分のものとしてください。
もう一つ、この単位の使い方には論理的に考えて伝えるということが含まれています。「非常に大きい」などという雰囲気で伝えるのでなく、「間口50 mある大きい家」と伝えるようになります。「LEDは非常に明るい」ではなく、「蛍光灯の電力効率が70 lm/Wであるのに対しLEDは100 lm/Wと明るい」と考えるようになります。数値をとらえて考えるようになるのです。普段、社会のいろいろな課題について意見を聞く時も定量的に、そして言葉の意味を正確にとらえるようになり、判断がより正確になってきます。
他人の意見を聞く時も同様です。定性的な話では、漏れなく検討した結果なのか、単に思い付きを並べたのか不明なことがあります。話に物理量が加わり定量性が明らかになると矛盾があるか明確になってきます。定量性が不明な時は自らそれを検証してみると理解に役立ちます。
この本を取り掛かりとして科学の理解を進めて戴けたらそれ以上の喜びはありません。皆さんのご健闘を願っています。
参考文献
JIS Z 8000-1,3~12 量及び単位シリーズ 2014~2016
理科年表2019
SI単位と物理・化学量 M.L.McGlashan 関集三他訳 化学同人1974
新しい1キログラムの測り方 臼田孝 講談社 2018